ミガキイチゴというブランドイチゴを生産する農業生産法人GRAを経営しています。始めたきっかけは、2011年東日本大震災によって、故郷の宮城県山元町が壊滅したこと。津波で町の人口の4%を失い、特産品だったイチゴハウスの95%が飲み込まれました。イチゴを通じて地域を盛り上げたくて、2011年に法人を設立。イチゴの生産から食ビジネスを展開し、最近は海外にも進出しています。

地方のビジネスは、どうやったらうまくいくか。外部環境のせいにしがちですが、どのような条件にある地域でも、そこにグローバルレベルで勝負できる産業があれば必ず再び栄えます。何でもいい、1個突き抜けたものがあれば、人は必ず集まってきます。

日本のイチゴの卸売市場規模は1748億円で、市場経由でないものを含めると2500億円ほど。しかも世界で10%ほど伸びています。ビジネスをするなら、まずマーケットを見ることがとても重要です。また、不安定・不確実な時代であっても、リーダーは中長期のトレンドを見通して将来を明確に示さないと、ヒト・モノ・カネはついてきません。

私が始める前のイチゴ農家の状況は非常に良くなくて、自給換算すると693円。コストの5割は人件費でした。だから大企業が参入してこない分、小さい農家でも勝負できるのです。

私たちは、イチゴ農業40年のベテラン、元公務員、私の3人でスタートしました。先端園芸にお金を投じ、温度や湿度、CO2、風速などを自動的に読み込んで環境を制御。ITと匠の技を連携した結果、数年間で単位面積当たりの収穫量が2倍、キロ当たりの販売単価が2倍で、単位面積当たりの経営性効率が4倍になりました。さらにミガキイチゴというブランドを確立して、1粒1,000円をはじめ、1パック800円などでも提供しています。

先端的なハウスを見ながらイチゴ狩りを経験できる「ICHIGO WORLD」を始めたところ、人口1万2000人の山元町に、世界中から年間5万人が訪れるようになりました。面白いものがあれば、どんな土地でも人は来るのです。イチゴを使ったコスメやお酒、酢などの開発や、東京でカフェ事業も展開しています。また、夏の収穫を目指す栽培に挑戦したり、インドやマレーシア、ヨルダンといった海外でも生産事業を行ったりしています。さらに、2015年から新規就農支援事業を開始。若い担い手を増やしたくて、1年の研修で独立できるように、技術から独立営農まで支援しています。私たちの資金は、未経験なのにまず5億円借り、さらに株で5億円ほど調達。リスクの塊でスピーディに頑張っています。

山元町民は、自分の町で生まれたイチゴの技術とブランドが世界中に広がることで、誇りを持つようになりました。ビジネスリーダーにとって、金銭的な価値を創り出すことはもちろん、誇りを醸成することも重要な役割です。誇りが高い人と一緒にいると、エネルギーレベルも上がります。

これまで辛いことも多く、いろいろ考えながら続けてきて、私なりに見出した「現状を打破するための5つの考え方」は次の通りです。私たちは何かと理由をつけてチャレンジしないもので、それを脱しないといけないといつも思っています。

1.脱ステップ論:

山元町で成功したら次は東北、日本、世界とステップバイステップで物事を進めていくのは堅実ですが、今これでは大きなチャンスを逃してしまうと思います。山元町から東京にモノを売るより、シンガポールやインドに売る方が、物理的な距離は長いけれど、ビジネスとしての距離が近いということがあるわけです。今のように情報がフラットで早くてダイレクトになると、そういうことが起こりやすい。例えば、インドの人はマーケットがあれば海外どこにでも飛んで行き、ビジネスをスタートさせています。かつて日本のマーケットは世界のトップレベルのサイズで、GDPの日本のシェアは30%でしたが、今は全然違います。だから、脱ステップしていきましょう。

2.極をとる:

賛成・反対の議論があったら、あえて自分の意見はハッキリ言う癖をつけること。人が一番成長するのは、人の批判にさらされる環境に身を置いて、自分の意見を表明するときだと思います。真ん中のエリアでは敵ができないけど、全力でついてきてくれる仲間もできません。常に極をとっていると、変わり者だと思われるので、あえてやるということです。私はニュースアプリなどで、ニュースに対する考えハッキリ書き切るというトレーニングを続けています。書くと批判もきて、それを受け止めて自分で消化している過程が勉強になると感じています。

3.マルチパラレル:

地方・国内で働いている人は、都会・世界へ行ったり、そんな人と会ったりしてみましょう。逆もしかりです。自分とは対極にある世界に触れる機会を複数の軸で持つことが、イノベーションの源泉になります。例えば、IT界の人なら農業のレジェンドのように勘と経験の人と接したり、営利企業の人はボランティア活動をしたり、効率を求める世界にいるならクリエイティブなことをしてみる。どんなに優秀な人でも、一人でイノベーションに至るのは非常に難しい。自分の中で非連続性を作り出しましょう。クリエイティビティは移動距離に比例すると思います。

4.PDPDPDCA:

PDCAは社会人になって最初に習うフレームワークで、最強だと思います。しかし、今はこれだけでは勝てません。昨日の勝ちパターンが今日は負けパターンになっているくらい、ビジネス環境が激しく変化しているからです。その中でチャンスをつかむには、PDPDPDCAというように1度に挑戦する球数を増やした方がいい。命中率が悪くても1個くらいかするので、それを大きくしていこうという考え方です。私自身もいろんな球を出してきて、生き残ったのが今のビジネス。3倍ぐらいはやってきました。人が挑戦できないのは、自分が失敗を恐れているからではないでしょうか。自分の失敗と挑戦を許容して、ビジネスでもプライベートでもぜひ球数を増やしてみてください。

5.脱リソース論:

思想や志を持って実行するとき、多くの人はヒト・モノ・カネというリソースを集めて行動しようとしますが、それではうまくいきません。リソースは思想や理想、事業計画から生まれるのではなく、それをベースにした行動から生まれるからです。まずは動いてモメンタムの芽を作ろうということです。思想や志があったら、まず少しでも自分のやれる範囲で最大限の行動をすることで、リソースが集まってきます。GRAでは、まず共同創業者と数百万円ずつ出して、小さいビニールハウスを作ったことで、応援してくれる人たちができました。それから銀行が数億円貸してくれて、ベンチャーキャピタルがお金を入れてくれるように。リソースは行動に集まってきました。行動こそが価値を生むのです。リソースがないときほど行動しましょう。

最後に、私たちが大事にして共有している「GRA WAY」をお伝えします。「実行実現」(実行して景色を変える)、「価値共創」(多くを巻き込み偶発的必然を起こす)、「自利利他」(尽くして求めず、尽くされて忘れず)、「電光石火」(早く速く流やく、同じ波は二度とない)。

行動こそが、価値を生みます。No action, No future.行動することで、一緒にいい社会を創っていきましょう。

 

質疑応答より

事業立ち上げのチーム編成をうまくやるコツは?

全てのビジネスにおいて、私がどんな人と一緒にやりたいかという優先順位は明確です。第1優先はハードワーカー。ゼロイチの立ち上げは、効率やスマートさではなく、絶対的な時間の投入が必要で、イチまで突き抜けようという思いを共有できること。あとは、人間として信頼できること。この2つが重要です。その後、立ち上がって外部の資金を入れるフェーズは、ハードスキルがある人がいないと組織として回っていきません

イチゴ一粒に1,000円の価値は、どうやって生み出したのですか。

イチゴを持って、東京の大田市場に毎週通いました。高級店のバイヤーさんを紹介してもらい、何度も食べていただくうちに仲良くなり、ブランドづくりを応援してもらえるようになりました。初期はその高級店に独占的に契約した。ブランディングにはチャネル、どこに置いてあるかが重要です。正しいチャネルを選び、量は売れなくても徹底的にブランドイメージを作ることが鉄則だと思います

ミガキイチゴは、プラチナ、ゴールド、シルバー、レギュラー、ノンブランドに分けて、最初は上のクラスだけに絞り、あとは全部ノンブランドで市場に流しました。すぐなくなるものは価値が高いまま推移するので、少しずつ広げて枯渇感を調整することで価格を維持してます

山元町の特産品がイチゴでなく他の農産品でも、同じことをやっていましたか

例えばメロンならやっていません。トレンドを捉えられそうなものでなければ、やっていません。実は祖父がイチゴ農家だったからという理由もあります

どうやって若い人を農業に引っ張りますか

ワークスタイルだけでは難しいので、プラス、ライフスタイルの提案が必要です。山元町はサーフィンができる、古民家を再生したゲストハウスを運営できる、などとライフスタイルの提案を行うことで若い人が来てくれます。また、最初は赤字で辛くても、ブラックではない給与や福利厚生を整えることも大切です

ゲスト講師 岩佐大輝(株式会社GRA代表取締役CEO)
モデレータ 松永正樹(九州大学ビジネス・スクール)
開催日時 2019年10月24日(木)18:30~20:30
会場 九州大学大橋キャンパス7号館1階ワークショップルーム
参加 37名