サイボウズの企業理念は「チームワークあふれる社会を創る」「チームワークあふれる会社を創る」です。僕らには理想があり、それを達成したいと共感した人が2人以上集まったらチームと呼びます。公明正大なプラットフォームで、多様な個性を尊重しながらチームワークで社会を創っていこうというのが僕らの考え方です。
働き方改革といわれても、楽しく働けないのはなぜでしょう。上が「やれ」と言っても、現場に負担がかかり不満がたまります。世界の時価総額ランキングを見ると、平成元年はトップ10のうち8社が日本企業でしたが、平成30年は10位中8社が米国企業で、50社のうち日本企業は35位のトヨタのみ。これを「失われた30年」と呼び、取り戻すために時価総額を上げようと利益を目標に掲げている限り、働いている人は幸せになりにくいのです。
国連の幸せ度ランキングで上位に並ぶ北欧の国を見に行きました。彼らは、GDPを上げることを目指すのではなく、家族と過ごす、自然があるといった一人ひとりの幸せを大切にしていました。僕が働いているシリコンバレーでは、GoogleやFaceboook、Appleと天秤にかけて、うちに入社してくれる人がいます。そういうミレニアム世代は、時価総額経営をやってきたアメリカが貧富の差を生み出した現実を知っており、お金ではない幸せを探そうとしている。だから、チームワークあふれる社会を創ろうという僕らに共感してくれるのです。
社会を変えることは難しいので、まずは会社を変えませんか。会社を変えるときは「制度」「ツール」「風土」が三位一体になっていることが大事です。企業理念や風土は、社員の行動に表れるもので、行動をコントロールするために制度があり、実現するためにツールを活用します。マネジメント層がこんなチームにしたいと考え、じゃあ制度やツールはどうしようかと3つを一緒に考えて微調整することで、会社ができていきます。
サイボウズには、離職率28%の時期がありました。働き方や制度、風土改革にチャレンジして、今は4%程度になりました。社員が働きやすい環境にしていくと、成果重視の人は辞める一方で、会社の考えに共感する人が集まり、いい雰囲気に。業績がぐんと上がり、2桁%の成長を続けています。
では、どうすれば理想のマネジャーになれるでしょうか。前提として、Before Internet(BI)からAfter Internet(IA)に、新しい時代へのパラダイムシフトが起こっていることを認識しておく必要があります。携帯電話のない時代は情報が大事で、部下から課長、部長と情報を上げていき、トップは重要な情報を持つことで権威を保っていました。しかし今は手のひらから世界中の情報にアクセスできて、世界中に発信できるようになりました。すると、自分の持っている情報をいかに共有して情報を交換し集めるかが大事になっています。そして、個人ではなく、情報を持っているみんなでチームになって戦う方が有利です。
そんな時代に優秀なのはどんな人か。記憶ではなく検索スキルがある人、昔の常識にとらわれず非常識な人の方がイノベーションを起こしやすく新しい時代を拓くかもしれません。これからは何が正解か分からないので、とにかく行動する人、人と違う個性やスキルを持つことがすごく大事になるでしょう。
新しい時代のマネジメントは、情報を共有することから始まります。平等ではなく、一人ひとりに合わせたマネジメントが社員の幸せにつながります。権力者が管理して指示するのではなく、ITを理解しているミレニアム世代も含めてみんなの意見を聞き、オーガナイズしていきましょう。情報を共有して意見を聞き議論を尽くした上で、「時間が限られているから、最後は自分に決めさせて、責任を取るから」というマネジメントの方がラクで、新しいものが生み出されるのではないでしょうか。
では、明日からどうすればいいか。会社としては「公明正大」に、業績が悪くても失敗しても、何でもありのまま事実を共有すること。その上で、自分たちは情報をオープンにするから、社員には「質問責任」があり、知らなかったら質問して、提案があるなら言ってほしいと伝えること。そして、「ザツダン」によって一人ひとりの人となりや思いを知り、その人に合わせたコミュニケーションやマネジメントをすることが大事だと思います。個性を生かして、どう組み合わせるかを考えるのがマネジャーの役割なのです。
リーダーはチームをどうしたいか、メンバーに自分の思いを語ることが重要だと思います。キャンプファイヤーの真ん中で自分が歌いたい歌を歌い、踊りたい踊りを踊ることで、共感したメンバーが集まり協力してくれることでしょう。人が会社を作り、会社が社会を作り世界を作ります。まずは目の前で自分のチームがイキイキワクワク働いてもらえるように、一人ひとりを幸せにするようなマネジメントを心掛けて、新しい時代のいいチームを創りましょう。
質疑応答
リーダーが実践してくれない場合に、部下ができることは何でしょうか。
基本は上司と同じで、情報共有・情報公開で戦うことです。上司に「ちょっと来て」と個別に呼ばれたりしても、オープンなところで複数に伝えて、仲間を増やすことが大事です。実は、経営者は会社を変えたいと思っていても、中間管理職が忖度して情報にフィルターかけている場合もあります。
多様な個性を生かすと、意見の対立が生まれるのでは。
会社の重要な意思決定は、プロセスが公開されず、結果だけ知らされることが多いです。なぜそんな戦略や商品、制度などにしたのか、プロセスから公開して意見を聞き、その都度説明していけば、納得してくれる人も多いはずです。最終的にかみあわないときは、あらかじめ決める人を決めておき、その人が責任を取ると宣言して終わる仕組みにするといいと思います。
会社は学生にコミュニケーション能力を求めます。ザツダンもできない学生はどうしたらいいのでしょうか。
2つある気がします。コミュニケーション能力が大事という会社は、一人ひとりを見ずに、一定のプロトコルで話せる人を「コミュニケーション能力がある」と言っているのではないでしょうか。それは自分たちがラクをしたいだけなのかもしれない。もう一つ、対面では話さないのに、キーボードではすごく話す人もいます。ネット世代はリアルに話すより書く方がうまいことも。僕らこそ一人ひとりを見て、相手に合わせたコミュニケーションをできるようにならなければいけないです。
制度とツールと風土は三位一体というが、どこからやるべきでしょうか。
全社の制度を変えるのは大変でも、自分のチームのコミュニケーションのやり方なら変えられます。例えば、管理職会議で出た話をみんなに公開する、みんなの話を聞く、ザツダンすることをルールにすれば、それが制度になります。自分の決裁でいけるなら、グループウェアというツールを入れることもできます。風土を変えるべきはマネジメントや経営者で、これが一番手ごわいです。
アメリカの会社の方が、チームワークが進んでいないのでは。
アメリカの会社はジョブディスクリプションがきっちりしていて、競争させられ、苦しんでいるところもあります。ただ、うちの会社もすごく協力し合っているというわけではないです。したいと思ったらできる、見たいと思えば見られるという選択肢が大事です。みんな忙しいので、人事制度づくりをオープンにしても参加してくる人はそんなにいない。選択肢を増やしておくことに、アメリカのメンバーも共感してくれます。選択肢を狭めると、主体性を失わせてストレスになってしまいます。
同じチームに頑張らない人がいたら、個性と捉えて尊重するのは難しそうですが。
鋭い質問です。多様な個性を尊重することとチームワークは、突き詰めていくと確かに相反します。チームは個性を大事にするためにあるのではなく、理想を達成するためにあります。だから最低限、チームワークあふれる社会にしようという僕らの考えには共感してほしいです。共感してくれる人の個性は尊重していきたい。その人が100%のうち10%の力しかここにさきませんということであれば、あとは経済合理的に報酬を分ければいいのです。
ゲスト講師 | 山田理(サイボウズ株式会社取締役副社長 兼 グローバル事業本部長 兼 kintone Corporation President[サイボウズUSA社長]) |
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モデレータ | 松永正樹(九州大学ビジネス・スクール) |
開催日時 | 2020年1月6日 (月) 18:30~20:30 |
会場 | 九州大学大橋キャンパス デザインコモン2階 |
参加 | 92名 |