デザインだけで解決できることは限られています。ゆえに、デザインで解決すべき課題を考えなければいけない。デザインよりも手前で問いかけ、問題に取り組む必要があります。
自分なりに腹落ちすることができないとデザインはできない。良いデザインはどう作っていくのか。学生時代には考えすぎてゲシュタルト崩壊してしまったので、一度大学を休学して起業しました。

デザインの語源を知っているでしょうか。デザインとはラテン語の「DE-SIGNARE(デジニャーレ)」という言葉です。「sign」という言葉が入っているように、形や記号化することを意味しています。私は大学で、言語とデザインの類似性について研究していたこともあり、最近では「進化思考」という言葉を使って、How(形態)とWhy(関係)に注目しています。
形態で美しい関係をつくること。かたちだけではなく状況がかたちを導いてくれるところ、この導かれる関係性みたいなことに目を向けています。

NOSIGNER株式会社のウェブサイトではWhyとHowを必ず紹介するようにしています。このVUCA*1の時代において、ライト兄弟やヘンリー・フォード、ムハマド・ユヌス、スティーブ・ジョブズのようにイノベーターにならなくては、100年後も生き残ることはできません。
チャールズ・ダーウィンやアルフレッド・ラッセル・ウォレスが言った進化とは、変異による試みと関係性による淘汰の相互作用なのですが、この構造はデザインとよく似ています。
Whyとは関係、Howとは変異のこと。これらは全く違うのに混同されやすく、2つのことを同時に考えようとしてしまいます。本題の進化思考の方法論は4つの関係と8つの変異で構成されます。

*1 VUCA
Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をつなぎ合わせた造語で、これら四つの要因により、現在の社会経済環境がきわめて予測困難な状況に直面しているという時代認識を表す言葉。

関係

関係01 解剖 – 一度解剖することで、全ての形の役割を確認する
なぜ必要なのか、どうやって出来るのかを施行する。この2つはデザインを作っていく上では同じなのですが、20世紀によく用いられていた手法です。

関係02 生態系 – エコシステムの全てのアクターを考慮する
マーケティングなどでありますが、商品周りはミクロで見過ぎてしまって見落とすことがあります。ソーシャルなものの見方を変え、広げ、レイヤーを変えていくことで、今よりも取りこぼさないように生態系を把握しようと努力し続ける必要があります。横浜ベイスターズでのプロジェクトは、単なる球団の魅力発信ではありませんでした。ファンではない人を取りこぼしてしまっていたので巻き込むようにデザインしました。実は日本野球発祥の地は横浜で、クリケット場が野球場になった経緯があります。横浜ベイスターズを横浜の街に馴染むように街全体のブランディングを担うよう変えていきました。プロジェクトマネージャーは、目的を拡大して語る力が必要で、それが自分のプロジェクトに個性を出すことになるのだと思います。

関係03 系統樹 – 進化図を書くことで、前例と目的を知る
分岐にはパターンがあります。2019年のテスラの電動トレーラーも紀元前35年の車輪の発明も、重いものを軽く運ぶという目的は同じです。道具を発明する動機というのは昔から変わっていません。これらの系統を紐解くことで、前例と目的を知ることができます。

関係04 未来予測 – バックキャストとフォアキャストで考える
人間には物語を語る力があるからバックキャスティングもできます。こうなったら困る、こうなってほしいと自分から課題と解決を行うので、チームでのco-creationは非常に難しくなってしまいます。先にこうありたいということを見ることで、目的に叶っているかを考え、周りの人が共感できる取り組みにすることができます。

変異

変異は、多様でたくさん必要なので、大量に起こすことで凄いアイディアが混ざっていることがあります。

・変異01 欠失 – 要素の欠失-引く
・変異02 融合 – 概念の融合-足す
・変異03 代入 – 入れ替え-代入、交換
・変異04 同化 – 擬態 – 似せる、溶け込む
・変異05 転移 – 移す、場所の変更
・変異06 変形・変質・先鋭化 – 大きさ・形状・色
・変異07 反転 – 鏡像・逆転
・変異08 組織化 – 群体化・集合化

ガウディのデザインや、シャープのネイチャーテクノロジーは自然を真似ていますが、せめぎ合い、どちらも迎合せずに徹底的にやり切っていくと止まる線があります。情報量を減らし、デザインの整合性を維持しながら、可読性をあげていく。これ以上過不足ないところまで追い込んでいくことで普遍的なパターンを見ることができます。
また人類と生物の絶滅間際で生じるような新しい関係性を描いていく必要があります。

質疑応答

進化思考が上手く機能しなかった事例や制約とは?

クライアントの問いが明確すぎる場合、適用できないと思います。他にも問題はまだたくさんありますね。良い方法があるのではないか、やり方はこれから開発していけることができると思います。
逆に進化思考を上手く機能させるには、モノにする腹づもりがあるかどうかが成否の鍵になります。また、その分野のことを知らないことがアドバンテージになることはあります。というのも、取りこぼされている人がいることが分かるし、なぜ取りこぼされているのか考えやすい。プロジェクトに取り組むときに、外から広い視点で見て勉強して詳しくなります。細部にはそれほど目を向けなくて良いのです。ベイスターズのプロジェクトでは、プロジェクトが始まった時点では野球やベイスターズのことをほとんど知りませんでした。プロ野球の全体像や他球団のやっていることを把握したり、横浜市とベイスターズの関係を知ることで、ロゴやフォント統一などの強化を推し進めました。結局選手全員の名前までは知らないままでしたね。

論理とデザインの関係をどう考えますか?

生態系の観点からエコシステム内のそれぞれの立場を考えることが重要ではないかと思います。

ゲスト講師 太刀川英輔(NOSIGNER株式会社 代表取締役)
モデレータ 徳久悟(九州大学大学院 芸術工学研究院)
開催日時 2019年12月16日(月)18:30〜20:30
会場 九州大学大橋キャンパス デザインコモン2階
参加 70名