今、世の中は大きく変わり、大企業でも構造を変えていく必要があります。Dr, John Seely Brown氏によると、過去70年間ほど安定していたシステムが大きな変革期を迎え、しかも仮説が2~3年でコロコロ変わる。不安定で不確実性の高い時代に、企業はどうしたらいいか。Brown氏は次の3点をあげています。まず「経験の蓄積から学習能力」へ。経験にもとづいて規模や効率性を重視した戦い方ではなく、学習能力が大切です。次に「変革はCoreではなくEdgeから」。外界と接するエッジから内部を変えていくこと。そして「Learn to unlearn」、過去の成功体験にとらわれず、常に新しく学ぶためにアンラーンをしなければいけません。

そこで我々は2016年、ゲームチェンジャー・カタパルトをパナソニックのアライアンス社内で立ち上げました。カタパルトは、新しい価値や事業を生み出し加速する企業内アクセラレーター。ミッションは、未来のカデンを作る、社内外の多くの人と共創する場づくり、新しい製造業のあり方の模索、の3つです。社長からではなく、エッジ側にある我々がやるということで始めました。

我々は新しい価値を生み出すために、3層の活動をしています。一番下の一般社員層には社内外で新しい事業のアイデアを生み出せるような活動、風土づくりもやります。ミドルマネジメントでは、ビジネスモデルに磨き上げます。ここでのポイントは、社内で議論するより外の展示会に出して、外部の反応を見ながら磨くこと。そして一番上は経営幹部を含めて、新事業に投資できる仕組みや、社内R&Dや事業開発の仕組みの進化に踏み込みます。3層に一度に働きかけるのが特徴です。オープン・イノベーション型で、既存のやり方で100%を求めるのではなく、β版でいいから世の中に出そうと話しています。

カタパルトは、自分のアイデアで社会の課題を解決しよう、新しい価値を生み出そうという情熱を持ったチャレンジャーにとっての発射台です。まずビジネスコンテストを始めました。募集したのは、企業の未来のゲームチェンジに変革につながる事業アイデア。自分自身が必要性を感じて、絶対に事業化したいというパッションがあるアイデアを持ってきてと伝えました。いろんなアイデアから選び、プロトタイプの開発費とマーケティングの活動費、社内外のサポートを付けます。7月に始まり半年ほどで、SLASHかSXSWに出展して、英語でプレゼンします。

これまで120以上のテーマが集まり、実際に事業化したものもあります。例えば、テレビみたいなディスプレイで動画配信サービスを事業化するアイデア、富山の薬売りのような置き型のビジネス、マルコメとコラボで味噌ライフを楽しむプロジェクト、おにぎりを握るロボット、うしろ姿見ミラー事業などが生まれました。

世界の展示会に出ると、家電製品が社会課題を解決するというアプローチは新しくて分かりやすいと言われ、応援してもらえます。一般の人の前で話すことで、社員のやる気とミッション感が高まります。我々が学んだのは、社会課題解決型の事業で、お客さんとのエンゲージメントを高め、そして共感を集めるプロジェクトがいいということでした。

社内では経営幹部がどうしてもGOできないことも多く、社内で事業化できなければ、いったん社外に出して事業化しようということで、アメリカのベンチャーキャピタルと経産省系のファンド、我々が合弁で株式会社BeeEdgeを設立しました。ここではスピードを上げてEXITを目指します。パナソニックブランドを使わず、2019年春に25万円のホットチョコレートマシンを発売。嚥下障害の方のために食べ物を柔らかくする家電製品を開発した会社もあります。

人材育成というと、経営幹部候補をどう育てるかという話になりがちですが、カタパルトでは社内起業家としてコトを起こせる人、企業や組織や職能を超えて活躍できる人を育てています、それが会社の人・事業・風土づくりにつながり、やればやるほど社内の風土や人材育成、仕事の仕組みも変わっていきます。

20世紀の考え方から21世紀の考え方に大きくシフトする時代に、それを進めるのがカタパルトの役割です。21世紀は新型資本主義で、ベンチャーキャピタルが出てきて、新しい事業に自ら率先してお金を出し、1個の事業にリスクをはるのではなく、多くのところに投資する。大量生産販売から大量カスタム化、効率から価値創造へ。ならば、日々の業績評価や目標管理ではなく、社員がパッションやモチベーションを持ち、自ら事業を作っていくようにすべきではないでしょうか。カタパルトのメンバーは、25%の時間をカタパルトに使っていいことになっています。上司は評価せず、自由にできて、失敗しても怒られない安全的なところを作っています。

我々の行動指針は、今まで学んできたことをいったん外に出すUnlearnと、固定概念を壊して実現するHack。カタパルトは、これからも社員が変わることで会社が変わり、日本の大企業が変わり、グローバルでいろんな会社の仕組みが変わっていくことを目指します。

質疑応答

多くの企業はこのような取り組みを始めるのが難しいです。どんな経緯でできたのか、どうやって社内を説得したのですか。

2015年に経営幹部が中期戦略を考える中で、若手30代40代で集まり、未来をどう作ろうかと議論して10月に提案。翌年1月に幹部から「やるよね」とメールが届き、やる気のある4人で「やります」と幹部に言いに行ったのが2月。3月にはSXSWへ出張し、4月にカタパルトを立ち上げ、テーマを募集して6月にスタート。4人とも営業や企画、設計などの本業があり、兼任でやったのがポイントかもしれません。

本業じゃないから上司に相談せず、かたく作らなくていいし、何か言われても気にしません。あとは予算がないので、経営幹部にスポンサーを付けることが大事でした。

アクセラレーターのプログラムにコミットしようとすると、上司からのブロックがよくありますが、回避する仕組みは。

本業の25%をカタパルトにコミットできることを人事にOKしてもらい、初めから制度にしました。会社のサイトにも書いてあります。加えて、「私はこれがやりたいので、よろしくお願いします」と同僚や上司にパッションを伝えてコミュニケーションを取るように指導しています。

25%のコミットというのは、本業の業務量を考慮するのですか。

年間を通じて25%なので、そのときどきでバランスが取れたらいいと思っています。職場の上司と我々が相談するケースもあります。

運営で苦労されていること、ジレンマは。

全部がジレンマです(笑)。大企業に入ったサラリーマンが起業できるのかという議論は多いですが、大企業かスタートアップかではなく、間の人はたくさんいると分かりました。そんな人のパッションに火をつけていくしかない。ハートがよくても既存事業の一部の仕事だけをやり、目が死んでいる人はもったいないです。

パッションでやる新規事業と働き方改革は、整合性がよくなくて苦労しています。自分をコントロールできずに倒れたりメンタルに影響が出たりしないように、寄り添いながら見ておくことも必要です。

他社や大学とのコラボは。

大学との例では、1年目にアメリカNYのパーソンズ美術大学とコラボして、彼らの2チームを一緒にSXSWに出しました。慶応SFCやMITメディアラボとも活動しました。

知財は問題にならなかったのですか。

問題は山ほどあります。BeeEdgeは連結子会社ではないので、事業を移すと知財を譲渡しなければなりません。ライセンスのような契約など、その都度やり方を見つけてきました。大学との場合は、学生が卒業するので買い取ることが多いです。

中小企業でオープン・イノベーションを推進するために必要な要素は。

大企業だからリソースがあるかというと、使えないことが多いです。中小企業やファミリービジネスはトップが近くて、トップが共感するプロジェクトであれば、むしろやりやすいのではないでしょうか。

チームを作るときに考慮することはありますか。

経験上、いいチームになるか初めの頃は分かりません。我々はチームでの応募にしていて、ワークショップをして自然にチームが発生するような取り組みもしています。一応チームの型としては、技術、ビジネス、マーケティング、デザインをできる人がいた方がいいと伝えますが、ほとんどその通りにはならないです。選考を通ってから、足りない人を探すこともあrます。

アイデアコンテストの段階でフワフワしているものをどうブラシュアップするのですか。

最初はフワフワでいいです。ブートキャンプと称し、半年で10回くらい勉強会をして、階段を上がるようにレベルを上げブラッシュアップしていきます。上司や同僚に相談せず、お客さんに話を聞きながらサービスデザインをして、ビジネスプランに仕上げていきます。

ゲスト講師 深田昌則(パナソニック株式会社アプライアンス社 Game Changer Catapult [ゲームチェンジャー・カタパルト、以下GCカタパルト] 代表)
モデレータ 徳久悟(九州大学大学院 芸術工学研究院)
開催日時 2020年2月6日(木)18:30~20:30
会場 九州大学大橋キャンパス デザインコモン2階
参加 33名