私自身も起業家で、以前はIITのジュール・F・ナップ・アントレプレナーシップセンター(Jules F. Knapp Entrepreneurship Center)を運営していました。IITのデザイン学府(Institute of Design)でデザイン方法論の修士号(MDM)を取得した後、IITのスチュアート・ビジネス・スクール(Stuart Business School)の教員となりました。ナップ・アントレプレナーシップセンターは、私たちが「クライアント」と呼ぶ、起業に乗り出した学生や教員、卒業生たちを支援する組織です。アイデアの状態から初めてエンジェル投資家らにコンタクトするときまで、主に起業の初期段階をサポートしています。

MDMの学生は全員に社会人経験があり、平均して10年程度プロとしての実績があります。この点が、学部卒業後に就業経験がほぼないまま進学可能なデザイン学修士プログラム(MDes)とは異なります。MDMでは、デザインストラテジーからイノベーションストラテジー、そして人間中心設計(HCD)まで、多くのことを学ぶことができました。私はデザインストラテジーを専門としていましたが、アントレプレナーシップの理論的な礎を築くのに非常に役立ちました。どのようにアイデアを生み出し、そのアイデアを市場や人を巻き込んでテストし、組織的かつ体系的に精緻化していくかなど、私が受講した授業は、アントレプレナーシップに極めて関連が深いものばかりでした。

理論と実践を組み合わせたMDMの教育方法が好きで、私は今もこのように教えています。ヴィージェイ・クーマー(Vijay Kumar)教授の著書「101のデザイン・メソッド(原題:101 Design Methods)」は、アイデアをデザインする様々な方法を詳細にまとめた本ですが、起業家仲間たちに参考書として紹介しています。重要なのは、デザイン・メソッドとはツールであり、様々な種類があるということです。どんなツールがあるか、どのように使えるのか、そして時期や状況に応じて最適なものはどれかを理解する必要があります。

実のところ、MDMでは、いわゆる「デザイン」のバックグラウンドを持つ生徒は多くありません。実際、意図的にデザイン分野以外の人を募っています。IITのデザイン学府には、全く異なるバックグラウンドを持つ人々を集めて、その多様性を最大限に活かして学生の学習体験を豊かにしたいという明確な考えがあります。当時、私の周囲には、私のような元エンジニアや広告、営業、科学分野出身の学生がいました。同様に国籍も中国や韓国、インド、南米諸国など様々で、こうした多様性は、私たちの学習体験において非常に重要でした。

実際に学校では何をするかというと、基礎的なスキルや知識を教室での講義を通じて教わるのではなく、より実践的なプロジェクトベースで学びます。先に触れた通り、MDMの学生は何かしらの職業で10年程度の社会人経験がある人が多いため、いかに協力し合い、互いの専門知識を活用するかといった実務的スキルは、すでにあるはずなのです。こうして学生は各人の経験や専門知識を持ち寄ってプロジェクトの目標達成を目指し、プロジェクトを通じて学んでいくのです。

MDMの学位取得には、修士論文の執筆は必要ありません。いくつか必修の基礎科目を受講していれば、あとは受講したい科目を履修して単位を取得します。それだけです。論文の代わりにプロジェクトが毎学期ありますが、プロジェクトをやり遂げるのは非常に大変です。MBAとは違い、デザイン・スクールでは全ての授業にチーム単位で取り組むからです。仲間に合わせつつ、もろもろ起こりうる問題に対処しなくてはいけません。でも、いざ現実社会に足を踏み入れると、これと同じですよね。チームワークが非常に重要で、チーム内のバランスを理解することが求められます。ときには素晴らしいメンバーに恵まれ、最初からうまくやれるときもあれば、自分もチームメートも多忙で、でもタスクは残っているから、チームのことを全部自分一人でやらなくてはいけないというときもあります。そんなものです。プロジェクト・マネジメントは、プロジェクトを実際に管理することで学ぶことができるのです。