カリキュラムを拝見したところ、学生は基本的にビジネスに関連した科目を取る必要がないようですね。

そこが他の多くのコースとの違いなのだと思います。クラシカルなビジネスについてはほとんど教えていません。他のスクールのようにファイナンスや経済学に焦点を当てるのではなく、企業におけるのデザインプロセスにより重きを置いています。

ビジネス的な側面に関しては、個別の科目ではなく、プロジェクトの一環として学んでいきます。プロジェクトと一体化しているため、プロジェクトを通じて、学生は学習をより深める必要があるかどうかを判断できるレベルまで学ぶことができます。学生は情報の集め方を分かっているので、こうした側面については、現場で学ぶことになります。

何社の企業パートナーと提携しているのでしょうか?

研究院としては100に近いと思います。企業が直面する課題や関連する情報をコースワークに取り入れています。学部から始め、修士まで徐々に成長させている形ですね。今年はこの企業、次の年は別の企業という形で、それぞれのケースを扱います。かなり違いがありますので、面白いですよ。

本学部の事務所にはコントラクトマネージャーが2名おり、1名は研究、もう1名は教育を担当しています。それに加えて、非常に多くのパートナー企業と提携しています。グループで行った作業については、その対応が標準化されており、IP(知的財産)が大学側に帰属することになっています。これは、各個人の貢献を特定することができないためです。こうした基本的合意をいくつか結んでいます。

各プロジェクトの研究テーマをどのように決定されているのでしょうか?

本学部には審査委員会があり、各卒業プロジェクトはまず委員会によって審査されます。その際、「This is OK」「This is so good」「not」で評価されます。学生はプロジェクトを始める前に、チェックを受ける必要があります。差し戻されることもあれば、すぐにゴーサインが出ることもあります。

審査委員会の構成員は指導教官ですか?

いいえ、同じコースの指導教官ではなく、卒業審査委員会の構成員は別の人々です。そういう意味では中立的な組織で、各課題の質や一貫性などをチェックしています。こうしないと、何に学位を与えているのかわかりませんから。研究院長として、私は研究と教育だけでなく、審査についても責任を負い、判断がつかない場合の最終的な指示者としての役割を担っています。

卒業プロジェクトは、どのような基準要件を満たす必要があるのでしょうか?

基準要件は、トピックごとに多数あります。この大きなA3用紙が、マスターとなるルーブリックの様式で、(注釈追加)これに基づいて卒業審査を行います。ルーブリックの評価軸は「not enough」から「brilliant」まで複数の階層から成り、こういった項目を審査します。また、学生が卒業プロジェクトのプロポーザルを出してきたときには、このルーブリックを用いて評価可能かを確認する必要があります。

昨今の教育や研究界隈で、特に興味を持たれているものは?

プロジェクトベースの教育を非常に気に入っています。「21世紀型スキル」と呼ばれる、チームワークや意欲を持って様々な角度から作業にあたること、協働によるデザインなどを非常に重要だと考えています。従来の分野に依拠した教育においても、こうしたスキルが求められてきていることからも、重要な点だと信じています。

私たちは協力して仕事をしなくてはいけません。人生は、一人で解決するにはあまりにも複雑すぎますし、一つの分野だけで解決できるものでもありません。私たちには協力が不可欠で、率先して協力しています。私は、それがデザイナーや一部のチームの持つ、非常に強力なスキルだと信じています。

プロジェクトベースの学習がまだ新しかった時代から、私たちは革新を続けてきました。指導にあてる時間を効率的に活用するため、ブレンデッド・ラーニング(blended learning)を取り入れてきました。これが、私たちのカリキュラムにおける新しい要素です。

本を用いた古典的な学習方法は、オンライン上でもできますが、チームでデザインに取り組むことはできないと思います。デザインについて、どの程度までオンラインで教え、どの程度キャンパス内で教えるべきなのかまだ分かりませんが、今後考えていかなくてはならないと思います。

オンラインコースを活用しなければならない理由は、より効率よくする必要があるためです。大学が急速に成長し、コストも増大しています。私たちには十分なスペースがなく、十分な人員も持ち合わせていません。効率的にならねばならない一方で、学生が質の高い技術をキャンパスで学ぶ機会も確保しなくてはなりません。

同時に、学生側も、4週間にわたって本を眺め、ページをめくるだけの学習を好まなくなっています。そうした学習はオンラインでできるからです。私の子どもたちも、授業の動画を1.6倍速か、あまりに遅いときは1.8倍速、話が難しくなったら1.2倍速に戻すといった形で視聴しています。これは現代では普通のことです。知識の吸収スピードが速くなっているのです。細部が抜けていたり、定着が悪いこともあるかもしれませんが、そもそも全ての詳細まで覚えることはできませんよね。

このように、別の学習方法が求められるようになっているのです。また、古典的な学習方法は、非常にテキスト本位だと思います。ストーリーテリングや制作など、学習方法は他にもたくさんあります。視覚優位型の人もいますし、本学には失読症の学生も多くいます。

そのため、別の学習方法が求められるのです。テキストを減らし、他の学習アプローチを増やしていく必要があり、私たちも様々な可能性を探っているところです。テキストが悪いというのではなく、それも一つのやり方として、他のやり方も見つけていく必要があるということです。そこで本学では、プロジェクトベースの強力なカリキュラムを設けています。