本学の新専攻に対する印象や、率直なご感想をお聞かせください。

期待感を込めて言いますと、まず1点目は、デザインとアントレプレナーシップあるいはイノベーションを生み出せる人材育成を目指されるにあたって、デザインは今後ますます重要になってくると思います。我々金融業にとってのデザインは、ものの見方やビジネスデザイン、直感的にその場を定義する力というようなものとなります。

一つ例を申し上げますと、我々はお客様と長くお付き合いさせていただけるよう日々励んでおり、営業部門ではお客様の相続のサポートをさせていただく機会もございます。相続には証明書の準備など煩雑な手続きがあり、10年程前まで我々は、相続の手続きを費用や時間、労力といった「コスト」と捉え、できるだけ低コストで口座の相続ができるようにお手伝いすることを考えていました。

一方で、お客様と接するうちに、お客様は将来、自分の資産がどうなるのか、自分のご家族の今後をどう考えるのかといった点などに大きく関心を持たれていることが分かってきました。例えば、企業オーナーのお客様にとっては、自分の会社をどう承継していくかという要素も入ってきます。お客様の真のニーズは、将来に備えて資産や事業の承継について最適な方法をお客様とともに考えることにあると気づいたのです。このときが、お客様の相続について、コスト効率の追求から承継アドバイスという付加価値のご提供へとデザインが切り替わった瞬間でした。

一旦、相続はコストではなくお客様への質の高いサービス提供の場であるというデザインが定まると、その後は組織や人材の整備とともに、より付加価値の高いサービスラインアップの開発が加速していくこととなり、結果的に「承継」というビジネスの柱ができました。そういう意味で、デザインは、場の規定やものの見方そのものであるといえます。

2点目は、ものの見方にイノベーションを起こす人材です。我々の目指している変革と重なるところもあるのですが、企業を離れて、オープンイノベーションという形で生み出されるイノベーションはきっとあると思います。我々はオープンイノベーションを生んでいける人材とも一緒にビジネスを進めていきたいと思います。

一般にオープンイノベーションは、外部の特許を使うか(インバウンドオープンイノベーション)、内部の特許を外部に渡してプロダクトを作ってもらうものか(アウトバンドオープンイノベーション)があると思います。御社はどちらの方向を重視されていますか?

オープンイノベーションの型でいうと、まずはもっと利用者にとって使い勝手の良いサービスを提供したいという前提があるわけですが、金融という枠組みを考えると、なかなかスムーズに進まない手続きを工夫してつないでいくとか、あるいは、取引のプラットフォームにおいて様々な市場参加者も参画しやすいようにと考える際に、オープンイノベーションが有効かもしれません。

アウトバウンドオープンイノベーションとは少し異なるかもしれませんが、内部のノウハウを外部と連携することで新たなインフラやプロダクトを提供する取り組みはあります。例えば、ブロックチェーンの技術を使って有価証券の在り方を変えようとしているセキュリティ・トークンなどは、金融の既存の仕組みを新たな技術で利便性に富むインフラとして提供していくという意味では、アウトバウンド型に近いと考えています。

一方で、既存の証券取引プラットフォームの規模の拡大はもちろん重要です。その点において、オンライン、インターネットの世界は非常に重要だと捉えています。そこで我々はLINE株式会社と組むことで、個人投資家の裾野の拡大を目指し、より多くのお客様に証券会社として金融サービスの付加価値をいかに提供していけるかということを考えています。

後者はまさにインバウンド型のオープンイノベーションだと思います。御社が欠いている課題を自社だけで解決するのでなく、すでに先行で進めている外部を利用することによって御社の課題を解決されている。その意味で、オープンイノベーションとしてうまく機能しているのだと思います。