御社の2019年4月1日付の組織改編について教えてください。

岸:
4月1日付で全社組織としてデザイン本部を新設しました。全社には、約400人のデザイナーが在籍しており、そのうちデザイン本部には約50人が所属しています。

デザイン本部に加えて、カンパニーにはそれぞれの事業領域のデザインを担当するデザインセンターがあります。これは事業に紐づいていて、家電系のアプライアンス社、住宅系のライフソリューションズ社、B to B系のコネクテッドソリューション社、さらに新カンパニーとして発足した中国・北東アジア社にデザインセンターが設けられ、合計約350人のデザイナーが所属しています。

他社のデザイン組織は、一つにまとまって社長直轄や技術本部傘下という組織形態が多いと思うのですが、パナソニックは事業部基軸でデザイン機能を事業の前線にシフトしていて、大半のデザイナーがビジネスに近いところで仕事をしています。

デザイン本部の役割としては、パナソニックにおけるデザイン経営の実現に向けて、戦略の最上流からデザインが参画してクリエイティブをリードし、企業競争力の向上に貢献するところを担っています。

人材の採用と育成について、すでに手応えを感じられていることがありますか?

岸:
社内からの注目度や期待度が上がり、デザイナーの活動するレイヤーが確実に上がっているという手応えがあります。どこに向かって上がっているかというと、社長や経営幹部に向かって近づいている。これは、デザイン経営そのものなんですよね。まさにデザイナーが経営の中核であったり上流に参画していく、そこの手応え感はすごくあります。

本学の新専攻に期待する人材育成について教えてください。

渡邉:
大学に一番期待したいのが、ビジョナリー人材の育成です。過去に実施した例として、電球を買い換えたらエコになるよということで、環境省と一緒に国家施策に取り組みました。そうすることで省エネ家電が一気に広がるようになる。こういった行動のプログラムを作ることを、我々は「原型デザイン」と呼んでいます。

その次に2009年に取り組んだのは、家でCO2をプラスマイナスゼロにするというものです。CO2の計算も全部して、その代わりに新しい燃料電池や太陽光発電なども組み合わせるのですが、このゼロになる原型・雛形を作ることで、今、業界がZEH(ゼッチ、 ネット・ゼロ・エネルギーハウス)といっている方向に向かったんですよ。こういうことも一つの原型デザインです。

IoT家電などを通じて、情報が流通していくというモデルも原型の一つとしてやって、同じような情報流通の仕組みの中で、いろんなプロダクトがネットワークでつながって輝いていくようなことを仕掛けたいなという原型デザインをやっています。雛形ができれば、会社としては人数がいるから、スケールしやすいんですよね。

リサーチからコンセプト、PoC(Proof of Concept)から社会実装までやっていきたいと思っています。特に芸術工学府のある福岡はすごく地の利がいいし、今、行政もすごくいい動きをしています。社会実装のところをもっと増やしていけば、日本でも一番社会実装がしやすい街になっていると思います。

例えば、ある美容商品の提案をデザイナーに考えてくれといったとき、すぐに美容商品のデザインをしちゃうんですよね。そうじゃなくて、美容市場の提案が来たとしたら、もう1回社会を再設計する形で考え直すという視点が重要です。例えば、美しい人ってどんな人なんだというときに、ただ綺麗な人ではなくて、人生100年時代に100歳まで幸せに生きられる人じゃないかなと定義をした場合、デザインする商品が変わるはずです。

高いレイヤーでビジョンを持ち、こういう考え方ができる人材を大学から教育していくべきだと思います。我々は毎年10人から12人ほど、九大からもインターンに来ていただいているのですが、この視点を持っている人はまだ少ないように感じます。俯瞰して物事を考えなければならないとなると、抽象度が上がってくる。上がってくるけど、高いレイヤーになるとその分落ちてくる際にすごいエネルギーを放ちます。そういう意味でのビジョナリー人材のカリキュラムは、より重要度を増してくると思います。