まずは、ご経歴を教えてください。

大学卒業後、外資系コンサルティング会社に入り、海外勤務などを経て独立しました。ちょうどインターネットが普及し始めたタイミングで、メールマーケティングの会社を作り、数十人ほど従業員を雇って事業展開するまでやってから売却。その後、コニカミノルタが新規事業を作る部隊を創設するので責任者をやらないかという話があって、ビジネスイノベーションセンター(Business Innovation Center)、BICをゼロから立ち上げ、現在に至ります。

新規事業の立ち上げにおいて、最も重要な要素は?

どんな仕事でもそうかもしれませんが、ゼロから新しい価値を生み出す新規事業創造というのは、本当に人が全てです。社内外の人を巻き込んで、予算を取り、リソースをうまく使いながらプロジェクトを自分の思うような方向に持っていける。そんな力を持っている人を狙って、BIC立ち上げのときから採用してきています。

当然そうした力を持っているかどうかは面接だけで分かるものではありませんが、職務経歴書などで過去にどんなプロジェクトをやったのか、そこでどんな役割を担ってきたのかを突っ込んで聞く。そうすると、「新規事業の企画をしました」くらいで終わってる人が多いんです、つまり、提案をしただけで終わってるんですね。そうではなく、実際にプロダクトを作って、それを市場に出し、顧客やユーザーにコテンパンにやられ、それでも頑張って何とかなるところまで持っていった、そういうリアルな力をすごく重要視しましたね。

我々BICでは、約20のプロジェクトが同時進行しています。しかし、そのうち自社技術のみで成り立っているものはほとんどありません。あるアイディアをビジネスにしていくために何かしらの専門技術がいる。社内にはそれが存在しないとなったとき、自分が知らない分野のことでも手がかりとなるネットワークを持っていて、そこで専門家の理解と共感を得てプロジェクトに参画してもらう、そうした動きができるかどうかが鍵を握ります。

――その他に重要な資質をあげると?

失敗から学ぶ力です。スタートアップにせよ、大企業での新規事業開発にせよ、何らかの理由でプロジェクトが方向転換あるいは中断を余儀なくされることは、どうしても起こってきます。そこで、このプロジェクトはダメだったけれど、その経験を別の機会に活かそうと考えられる人は、期待のかけ甲斐があるし、非常に信頼されるでしょうね。

先ほどの話と合わせると、自分の専門外の領域にもつながるネットワークを持っている、そこで必ずしも自分の得意分野ではないテーマについて専門家とコラボレーションができる、そして、万一プロジェクトが「失敗」したとしても、そこから何かを拾って次のチャンスにきちんと活かせる。そんな力を備えた人は、新たな価値を生み出す新規事業創造にフィットすると思います。

そうした人を育成するには?

場数を踏む、たくさんのプロジェクトに関わって経験を積むことはもちろん必要です。それなしに力がつくことはない。

一方で、周りの環境も大事ですね。例えば、大企業だとどうしても信頼やブランドといった会社の資産は守らなければならないので、スピード感を犠牲にせざるをえないことがある。でも、価値創造においてスピードは命です。なので、当社も全社標準のビジネスプロセスはあるのですが、BICを立ち上げるときには中身を調整して、よりアジャイルなやり方にさせてもらいました。成長のためには、どんどんチャレンジして失敗して、そこでの学びをまた活かす機会がふんだんにある、そんな環境を探して、戦略的にそこに身を置くこともとても重要になってきますね。

最後に、将来、新規事業創造に携わりたいと思っている若者に向けてメッセージを。

異なる専門性を持った多様なメンバー、それも社内だけでなく社外の専門家も交えてイノベーションを目指すプロジェクトでは、「意識を合わせる」ことがすごく重要になってきます。自分とは違う経験、世界観を持つ人ともコミュニケーションを取れるかどうかが分かれ目です。ですので、これから価値創造について学ばれる皆さんには、内にこもらず、積極的に社会に出ていって、それもグラフィックデザインだとかITだとかの一つの分野ではなく、ジャンルが違う様々な仕事に触れてほしいと思います。