最初に、ご経歴とお仕事の内容を教えてください。

大学院を卒業後、IBMでシステムエンジニアや統計データ分析を活用したコンサルティングに従事し、2011年にアクセンチュアに転職しました。今はアクセンチュアのデジタルコンサルティング本部で、デジタルテクノロジートレンドを把握した上で事業そのものをどう変革していくかというところに興味を持ち、携わっています。

今のお仕事で、特に醍醐味となるところは?

当社には、ワイズピボット(Wise Pivot)と呼ばれるビジネス転換戦略があります。既存のコア業務については、効率化によってコスト削減を進めたり、デジタル活用によって収益性を高める。でも、そこで満足しているといつかは死に絶えてゆくので、既存事業の改革で生み出した投資余力を新規事業に振り分け、いつしかそちらに軸をスイッチしていくという考え方です。私が所属しているアクセンチュア・インタラクティブでは、特に新規事業・サービスの創出を一つのテーマとして取り組んでおり、上記の企業変革の中心的な事柄に携わっているという点が醍醐味です。

アプローチはその時々で様々ではありますが、我々はオープンイノベーションのネットワークも持っていますので、スタートアップも含めてお客様同士をつなげて「新しいビジネス形態を作りませんか?」 という構想から仕掛けていく。そういう思考回路で日々業務に取り組んでおり、従来型のMBA的なビジネス管理の側面から、よりアントレプレナーシップが求められる方向にシフトしてきていると感じます。

その中で、デザインという要素が絡む場面とは?

事業そのものを作ること。これ自体、大きな意味でのデザインワークです。加えて、最終的な事業の実行・運営におけるコミュニケーションやビジュアルへの落とし込みも変革を促進・実現する要素として、より重要になってきています。日本企業はこういった感覚面に訴求するミッション浸透は苦手な企業が多い。また、事業創造やサービスデザインにおいては、人間中心の視点でどういうプロダクト・サービスが社会に受け入れられるか、というところから考え起こしてデザインができる人材もしくはチームが重要です。これは単に事業計画書を作れるということではなく、目指すブランド体験と人間の根っこにある気持ち・欲望(インサイト)を掘り起こし共感してから、構想に持ち上げていくことが必要とされます。アクセンチュア・インタラクティブではこのような役割をエクスペリエンス・アーキテクト(体験設計者)と呼んでおり、重要なポジションと位置づけて育成を進めています。

その意味でデザインワークを高度なレベルで進めるための人材要件とは?

自分ごと化して進められることがまずもっての第一要件。言われたことをやります、では新しい事業、価値を生み出すことはできません。また、ビジネス頭でっかちになりすぎず、生活者の息づかいや動向に嗅覚を持つことが重要ではないかと思います。

インターンシップや自主プロジェクトを含めて、実社会での経験とそこで求められるレベル感に対する理解も必要です。九州大学の新しいプログラムを検討される中で、デザインに限らず、ビジネスを主軸にするにせよ、あるいはアントレプレナーシップを前面に出すにせよ、実戦の中で力を発揮できるよう、一定の実務経験を得られるようなカリキュラムがあると良いと思います。

これまでデザイナーはビジネスに関する共通言語に触れなくても良かった面があった。でもそれはどんどん薄れてきていて、少なくとも我々の現場では、デザイナーとコンサルタントとエンジニアが一緒に仕事をするのが当たり前です。当たり前ですが、着目する視点や言葉が異なる人種が一つのアウトプットを作り上げていくことは、結構難しい。日本企業は、工程に従って、それぞれの役割が高いレベルで仕事を果たそうとする意識・文化は強いですが、多様な視点・意見の中でアジャイルに物事を進めていくことは、ちょっと苦手。そういう環境でデザイナーが戦っていくときは、絵を描くとかWEBページをデザインするという話だけではなくて、事業計画やビジネスの構想というレベルから理解して意見を出していく必要がある。なので、自分でプロジェクトを立ち上げた経験があって、そこで様々な人と一緒にサービスや事業を回したことがある、という人は魅力的です。

そうした人を育成するには?

行動を起こすことを奨励し、失敗を許容する組織文化が必須ですね。1回失敗したらもう終わりというのでは当然人は萎縮してしまい、育たないので、ある程度の非効率性やもどかしさを受け入れ、人材を成長させることにコミットされた環境になっているかだと思います。場合によっては、会社に入ると育成の場や機会がないまま、いきなり本番中の本番ど真ん中みたいなところに回され、分からないままとにかく目の前のことに必死に食らいついていく、といったことに遭遇すると思います。それはそれでいいですが、小さな成功、失敗しないことに焦点を当てすぎると、大きな構想をデザインしようとした際に、視野が狭く、視座が低くなってしまう。学校という安全な場にいるうちに、大きな視点で物事に取り組み、実践と失敗をたくさん経験するのは、かけがえのない財産になると思います。挑戦癖を付けてほしいですね。

もう一つ加えるとすると、「越境」という考え方がすごく大事になってきています。自分で自分の枠を決めつけないで、いろんなことに対して興味を持って情報を取りにいく、体験にいく。そういう人は、何か話を振るとこっちがびっくりするくらい深い情報を、しかもどんどんトピックを切り替えながら話してくれます。例えば、デザインの話から入っても、ビジネスやアート、起業といった様々なテーマについても話題がとんでいって、しかもずいぶん詳しいなと。どうしてそんなに知っているのと聞いてみると、実はこんなプロジェクトをやったことがあって…と実体験として返してくれると、納得感もある。そんな、分をわきまえない越境人材とは、一緒に仕事をしてみたいと思いますね。