慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)には現在、デザイン、テクノロジー、ポリシー、マネジメントの4つ柱があると思うのですが、基礎リテラシー教育はどのように提供されているのでしょうか?

初期は基礎科目が4つに分かれていたけれど、4つがインテグレートされることに意味があると考えています。そこで、今はイノベーションパイプラインという基礎科目に変わっていて、アイディアを出すところからアウトプットまでを一気通貫で、プロセスをパイプラインで見るとシークエンシャルにやっています。その中で、デザイン的要素を学んだり、テクノロジー、特にインタラクションや、最近ならビックデータをどう扱うかというようなテクノロジーもあるだろうし、プロダクトやサービスはどうやってビジネスにするのかというビジネスモデルの考え方を学んだり。その基礎科目の中で学生が起案し、アイディアを出すところからユーザーのターゲットを絞ってという一連のプロセスをパイプラインでつないで、実際に必要な要素を一つずつ学びます。

KMDのプロジェクトについて教えてください。

プロジェクトベースドラーニングというのはあちこちでやっていて、よく聞くとプロジェクトは2種類に分かれます。

一つは授業の課題としてのプロジェクト。パイプラインのチームを作るというのもある種のプロジェクトで、ミニプロジェクトを科目内でやる、これは授業のツールとしてのプロジェクトです。

もう一つは、特に大学院の場合は研究プロジェクトを指していて、ゴールはアカデミックなコントリビューションです。アカデミックな論文を学術誌や国際会議で発表したり採択したりすることがゴールになっていて、KMDはそれでは社会は変わらないと思っているので、いかに社会の役に立つ活動をするかという視点で「ソーシャルインパクト」というのを大事にしています。従って、学術的貢献がゼロでも、社会にインパクトフルな活動をすれば博士を出し、すごい論文を書いても社会インパクトがゼロだったら学位を出さないかもしれない、という風に徹底してきました。

次の人材育成、教育のトレンドに関するキーワードは?

世界のトレンドとしては、リーダーシップトレーニングの重要性が増しています。なぜかというと、今までのリーダーシップトレーニングはもはや使い物にならず、新しいタイプのリーダーが必要になってきているからです。従って、新しいリーダーを育成するリーダーシップトレーニングが必要ということになります。それぞれの組織が今、必要とされるリーダーとはどんな人たちなのかというのを定義して、それを育てるためのリーダシップトレーニングを設計し実施するということを、世界中の研究機関や大学、企業の中のトレーニングプログラムを含めてやっているところで、これが一番の肝になります。

AIによって職が奪われるというような議論がされている中で、2つのことが言えます。やはり社会経済の全てにおいて、先端テクノロジーへの依存度や影響度が高まっているので、そこへの理解が不可欠であるということ。テクノロジーではできない人間の役割って何ということに、いろんな人が答えを出しつつあります。

トレンドとしては世界中みんな同じことを言っていると思うのですが、人間にしかできない役割は、あると思いますね。だからアメリカの美術大学がMBAを始めたり、ビジネススクールがデザインを始めたりしています。

人間にしかできないことの中に、クリエイティビティという言葉が必ず出てきます。ダボス会議の予測でもクリエイティビティがキーワードのトップ3に入っていて、クリエイティビティという言葉の中にはデザインという言葉が含まれますよね。そして、ここでいうデザインとは、グラフィックデザインやプロダクトデザインのそれではありません。

今KMDはデザイン、テクノロジー、ポリシー、マネジメントを軸にしていますが、今後も基本は変わらないのでしょうか?

レンズとしては4つの違う視点が必要で、もう少し分けることもできると思うのですが、少なくともこの4つがないと社会が動かないし、作れないだろうと思います。要するに、デザインとテクノロジーだとMITメディアラボになり、面白い未来をデモすることはできる。しかし、それをビジネスとして放り出すスタートアップをやりますということになるとビジネスマインドが必要で、もっと大きな社会を変えるということになると法律を策定するといった風に制度設計を考えるKMDでいうところのポリシーも守備範囲に入らないと何も変わりません。そういう意味で4種類の違う機能が、社会を動かすプロジェクトではいろんな組み合わせで必要だと考えているのです。