最初に、お仕事の内容を教えてください。

もともと編集者をずっとやっていて、これからはインターネットの時代だという頃ヤフーに入社しました。最初は「Yahoo!きっず」という小学生向けのサービスに従事し、東日本大震災が起きたときは社内タスクフォースを率いて情報発信したり、その後は大阪拠点の立ち上げに携わりました。今振り返ると、東日本大震災のときにオープンイノベーションとグロースハックの両方を一気に経験して、その経験は大きかったですね。自分だけでなく、会社の遺伝子も上書きされたような感覚がありました。

今のお仕事で、特に醍醐味となるところは?

いろいろやっているのですが、最近だとアートです。アートとビジネスとテクノロジーの関係性が重要だと思います。というのも、現代はVUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, and Ambiguityの略。不確実性が高く、将来の予測がつかない)時代と言われますよね。そんな時代の中で、テクノロジーがビジネスを通じて社会をアップデートしていくときに、改めて人間性とは何か、人の幸せとは何なのかを考えることが大事なのです。なぜなら、人間に関する深い洞察がないと、プロダクトをいくら作って実装しても、結局社会に浸透していかないからです。もともとは会社のステルスワークとしてメディアアート作品を社内有志で制作していたのですが、私が編集長を務める「Future Questions」でもアートから見た未来について取り上げ、昨年の文化庁メディア芸術祭とコラボするまでに発展しました。

VUCA時代において新たな価値を生み出すための人材要件とは?

関係性を見出す力を鍛える教育が、日本にはまだ少ないと感じています。一見関係のないもの同士をつなげるメタ認知力。それがアート思考にもつながると思うのですが、「この視点に立てば、アレとコレって同じじゃないか」という発想力が弱いことが多い。

当然専門性はないとダメですし、スタートアップ起業や新規事業ではグロースハックして事業を成長させるスキルは必要です。しかし、起業したり新規事業を立ち上げるときには「コレってどうしてやるんだろう」「結局、誰をハッピーにするんだろう」という問いを自発的に投げかけつつ、「今の人々や社会はこうで、その社会の中でこの部分がうまくいってない、本来はこうあるべきだ、だからコレをやるんだ」という本質的なビジョン、ミッションを語れないといけません。

そのためには専門性の殻に閉じこもっていてはダメで、学生なら専門や経験、できれば年代が違う人と触れ合うべきだし、社会人でも今なら副業兼業して社外で得たものを持ち帰って新たな知と知を混ぜ合わせる。そうすることで、事業KPI偏重ではなく、ヒューマンサイドの発想、人としての幸せみたいなことも視野に入れた発想が出せるようになります。

それに加え、特に起業する場合は、いろんなことをこなせるのはマストです。スタートアップだと、最初はメンバー3人くらいで始めますよね。その状況で、「私はエンジニアなのでコードを書くのが仕事です」なんて言っていられない。マーケティングもUIUXデザインも、なんなら営業だってやる必要があります。全てスーパーにできる必要はないし、それは無理ですが、ある程度マルチにこなせるのはイノベーションを生み出そうと思ったら大切な条件です。

そうした人を育成するには?

自分ごとにできるプロジェクトを立案し、やってみる。アイデアを付箋に書いてプレゼンして終わりじゃなくて、徹底してやってみる。アイデアを100個出すとか、競合分析なら自分たちと似たアイデアの既存事業を100社分析してみるとか。そこまでやると頭の筋肉がついて、直観的に「コレはいけそうだ」とか「アイディアが弱い」とか気づけるようになります。

そこまで徹底してやった上で、プロダクトを形にして世に出して、ユーザーから評価を受ける。作ったものに対して外部の人から評価を受けたら、必然的に自分たちは何をやりたかったのか、どうしてその結果だったのか、と向き合いますよね。それによってユーザー目線と柔軟性が鍛えられて、ピボットできます。頑固なままだとピボットできずに、そこで終わってしまう。

ただ、ピボットすることは辛いし、自分自身がリアルに感じるペインを解決したいという思いがないと迷走するんですよね。グロースハックして数字を伸ばすことが目的化してしまったりとか。だから、自分が抱えるコンプレックスでも、あるいは身近な人の痛みでもいい。何かしら自分の深い内面と向き合うことで、価値を生み出すときの痛みに耐えるというか、痛みを糧にする精神力やパッションが得られる。それが最終的には「社会をこう変えよう」というビジョンにもつながっていきます。