最初に、ご経歴と現在のお仕事の内容を教えてください。

高校からアメリカに行き、ニューヨーク州立大を卒業した後、日本とグローバルをつなぐ仕事をしたいと思い外資系の金融情報会社に入社しました。それから外資系の証券会社に転職し、その後、世界金融危機の際に会社が倒産、日系企業に買収されました。

日本の歴史ある大企業に入ってみたら、これまでの外資系企業に比べ、社員のキャリアに対する考え方や人の育成方法などが全く違うと気づいて、人に関する仕事に興味を抱き、人材開発にキャリアをシフトしました。業務の傍らボランティアでLGBTアライ(Ally)の社員ネットワークのリーダーをしていたので、人事に異動したタイミングでダイバーシティ&インクルージョン推進のマネージャーも任されました。

アクセンチュアでは、イノベーター育成を進めています。当社ではイノベーターにはいくつかのタイプがあるという考え方をしていて、中でも特にアーリーイノベーター(Early Innovator)という、いち早く何かをスタートさせる人と、バリューメイカー(Value Maker)という価値創造に軸を置いた人にフォーカスを当てて人材育成を進めているところです。

イノベーターを育成していく上で、特に醍醐味となるところは?

これまでの人材育成の考え方は、業務に必要とされるスキルを会社が選定し、リーダーはこんなことができなければいけないと、研修を通じて学んでもらうというものでした。でも、アクセンチュアでのやり方はそうではありません。研修の参加者には、会社として持つべき軸と方向性を示した上で、自分のチームを動かしていくにはどんな行動をすべきかを自らの頭で考える場を提供します。

会社からお仕着せの研修を施しても現場では通用しないというケースが多いのですが、「自分にとって、自分のチームにとって必要なリーダーシップとは?」を自分で考えてもらい、同じような課題を持つ他の参加者と意見を交換することは、実務でそのまま役に立つという実感があるようです。ただし、自分で考えるよりも答えが欲しいというタイプの人は、迷ってしまいます。

他にイノベーター育成上の課題をあげるとすると、どんなものが?

人材開発のベースにストレングスファインダーというスキームを使っており、その人や他者が持つ強みにフォーカスします。すると、これまで「自分や部下、チームの問題はこれとこれ。なので、今後はここを改善する必要がある」と考えることに慣れていた人たちは戸惑ってしまう。問題解決思考の人に、それを一旦アンラーニングしてもらい、「強みを活かすと、チームにどんな貢献ができるか?」「メンバーの強みを活かして、どんなチームを作るか?」というオープンエンドな思考モードにシフトしてもらうのは試行錯誤の連続です。

また、ストレングスは当然一人ひとり違います。自分にできることが他の人には難しい。逆もまたしかり。だからこそ、異なる強みを持つ人たちと一緒にやる意味があるのだと、ロジックでは皆分かるのですが、なかなか気持ちと行動がついていかない。

でも、問題解決ではなく価値創造をしていくには、多様な人が持つ多様な強みにフォーカスすることが必須です。今の時代に、いろいろな領域のソリューションを掛け合わせて新しい社会を作っていくとなったとき、コンサルタントであってもその答えを知っている人はいないんですよね。

そうした中、イノベーターを育成する上で重視していることは?

人は知らずしらずのうちに自分の価値観に固執してしまって、それが成長の障壁になったり、リーダーシップを発揮する上で問題になったりします。そのため、無意識の偏見、アンコンシャス・バイアス(unconscious bias)に関する研修は必須にしています。

ベースにあるのは、多様性と価値創造は表裏一体という考え方。多様性というと、女性や障害者、LGBTなど特定の人の問題だと考えがちですが、そうではなく、人は誰しも違う考えと価値観を持っていて、何が「正しい」かを自分の価値観だけで判断することはできません。異なる考えを持つ人たちとコミュニケーションを持ちながら、新たな価値を創造する。多様性の推進とは、一部の人たちに配慮するものではなく、そもそも自分が「当たり前」だと思うことが無意識の偏見であり、価値観や常識にはいろいろあるということ。そこが腑に落ちて、違いがあるからこそ新しい価値が生み出せる、違いそのものがバリューなんだということを理解してもらうことが大事だと考えています。

九州大学の新しいプログラムの中で、デザインとビジネスとアントレプレナーシップという異なるフィールドを掛け合わせるというのは、私の感覚からもとても納得感があります。さらに、そこから生み出される価値というのは誰のためのものなのか、宛先は誰なのかを常に問いかける目線があると、より素敵だなと思います。

 

※このインタビューは2019年7月30日に行ったものです。東様のご所属先、内容についてはインタビュー当時のものです。