まずはi.schoolの説明からお願いします。

i.schoolはinnovation schoolの略で、2009年に東京大学の知の構造化センターという研究センターにて始まったイノベーション教育のための教育プログラムになります。東京大学知の構造化センターは、日本は課題先進国で、知を構造化することによって、それを創造的に解くということが日本の成長の礎になるだろうという一つのコンセプトがあり、その学術的な取り組みをする機関として誕生しました。

当時の東京大学知の構造化センターでは、日々蓄積される大量の知識を、様々な構造化技術を用いて、新しい知的価値、経済的価値、社会的価値、文化的価値に結びつけるために、例えば人工知能や自然言語処理、WEB工学の研究が行われていました。その後、構造化された知識の活用方法やそうした方法を使いこなせる人材の育成を目的として、創造性教育の研究や教育活動も加わりました。論理的に物事を整理していく、活用していくという文脈の発展系として、創造性教育が位置づけられているのは結構面白くて、i.schoolのアイデンティティーはそういうところにあるのかなと思います。デザインの文脈からイノベーション教育に入ってくるところが最近多いと思うんですが、i.schoolは割とエンジニアリング的な部分から入ってきました。

i.schoolならではのメソッドを学部生向け、修士、博士とどうアレンジされているのでしょうか?

学部の学生に対する教育上のゴールとしては、やはりイノベーション教育や創造的なことをやるのは楽しいということを学部1、2年生には知ってほしい。特に東大は教養学部で3年次から学部学科が決まってくるので、基本的にはみんな幅広くやっています。一方、いろんなものを学びたい学生さんはそれなりにいると思っていて、その中でクリエイティブな力を身につける楽しさとか、この先はそういうことを学ばないといけないんだなとか、仮に学部は物理みたいなところにいくとしても横串を入れられるスキルとしてクリエイティブやイノベーションメソッドがあることを知ってもらう。クリエーションやイノベーションに関する学習の認知づけや動機づけがまず大事だと考えています。

ただ、それをレクチャーのように伝えても、頭では分かっていても実践では使いこなせるようにはなりません。学部学生の皆さんが頭だけではなく体でも分かった状態を作るために、教育手法は大学院生向けのプログラムと同じく、グループで創造的な成果物を生み出すワークショップ形式ということになっています。目的は、やはり体感して使えるツール、思考ツールや行動ツールみたいなものを頭でも体でも持ち帰ってもらうということです。マインドセットやモチベーションの変化みたいなものよりは、知ってもらうとか使える武器を与えるみたいなことがゴールになっています。一方で、大学院生向けの教育プログラムでは、方法論の伝授はもとより、マインドセット変化やモチベーション獲得まで教育上の目的として設定してします。

i.schoolのオリジナルな部分について教えてください。

それぞれラベルがついた思考ツールみたいなものがあったとして、それを提唱している人や組織がいるわけですよね。例えば、濱口秀司さんのブレイク・ザ・バイアスとか、日立製作所のエクスペリエンスデザイン、他にも、ラピッドプロトタイピング、リーンスタートアップ、ちゃぶ台返しみたいに多種ある破壊的創造プロセスみたいな。私は、i.schoolのオリジナリティーというのは、これらの方法論単位ではないような気がしています。

むしろ、i.schoolのオリジナリティーを方法論単位で探せといわれると、実は悩ましいなというのが、もしかしたらあるかもしれません。もちろん、外部の方から見ると、その方法論やプロセスはi.schoolで初めて知りましたみたいなものが、実はあるかもしれませんが。世界中の方法論に対する私の認識からすると、私がもともと物理を学んでいたこともあり、例えていうと、応用面では違うように見えるけれど原理は電磁気の方程式なんですといった感覚に近い。一見すると違う方法論やプロセスに見えても、それぞれが本質的に異なるのではなく、あくまでもアプリケーションが違うだけということが多いですね。

i.schoolにオリジナリティーがあるなと思うのは、それぞれ個別に存在していたツールやプロセスみたいなものを最適に紡ぎ合わせていくような教育プログラムである点です。なぜそういう紡ぎ方がいるのかということを、それなりに実践的研究成果に基づき論理的に説明できる。他組織・人が提唱する方法論・プロセスを直輸入しているわけではなく、i.schoolスタッフが咀嚼し、紡ぎ合わせる形で教育プログラムが設計されているところが、i.schoolとしてのオリジナリティーなのかなと思います。創造的な成果物を創出するようなプロセスそのものを、i.schoolでは創出している感じでしょうか。