大学院 造形構想研究科におけるビジネスの位置づけを教えてください。

会計や財務表を読める必要はあると思いますが、ファイナンスの専門家になる必要はないと考えています。ビジネススクールにするつもりは今のところ全くありません。ビジネスアドミニストレーターも世の中には多くいますし、そこは中途半端に競ってもあまり得もないと思っています。
ビジネスとデザインが一番関わるところでいうと、プロジェクトの設計を考えるときにどういう要素がビジネス上のプロジェクトでは考慮されているのかということさえ把握しておけば、プロジェクトの押さえどころにデザインを適用することが可能となり、ビジネスにおける自由度が高まります。

自身でデザインのアプローチを身体的に理解することが前提の上で、世の中でプロジェクトがどのように遂行されていくかを把握し、これからのビジネスが、ものを作って売るタイプから体験を磨き込んでいくものへと変わってきている流れを理解することで、デザインのどういった部分が寄与できうるかが見えるようになります。従来は製品開発・投資としてデザインが行われて日々の財務の会計処理の中で回収されていく、売り上げでその分の先行投資を回収していく枠組みで基本的には描かれます。しかし、これからのビジネスではそうではなくて、デザインはずっとやり続けなければいけないものとなります。こういった変化を理解できないと、実はデザインを業務の中に取り入れること自体がそもそもできないんです。

我々が目指しているのはあくまでクリエイティブ・デザインを軸にできる人材です。社会を変革するために、デザインを重視した経営・プロジェクトを行うときに何が必要なのかということを、俯瞰した観点から見られるようになることが、ここでやろうとしていることです。先ほども述べたように、基本的にデザインのアプローチについて、プロトタイプ型の思考方法やリサーチの重要性などを、経験を通じて理解していることが前提です。

デザイナーが経営の舵取りの中心的な存在というよりは、デザイン部やデザインのトップを目指すことを意識されていますか?

最近アーティスティック・アントレプレナーという言葉があります。個人の内的欲求に基づいた強力な主体性をもとにした企業です。マーケットで求められているから、とか儲かりそうだからという軸ではなく、自身がこれをやりたいから、という動機であることが特徴です。これはアートの動機と同じです。問題解決型の事業開発が限界を迎えているように、企業においても今、求められていることをテーマにするのではなく、先を見据えたビジョンが必要です。投資の世界でも、ものすごく何かに興味を持っていて、このことを突き詰めた、それを何とかしたいという人の見えている世界に対して支援していきたいと考えられています。逆にいえば、そういったビジョンに対して支援していきたいと考えるビジネスパーソンは大勢います。デザインについても同様で、優れたユーザー体験をビジネスの中核にしたいと考えている起業は多いでしょう。こういった社会の中において、クリエイティビティやデザインといったものを専門にしながら、適切に社会・ビジネスへの橋渡しをしていくことを中心に考えています。

企業の中のCDO(Chief Design Officer)は、経営においてのデザインを担う一角です。CDOは企業全体の状況を見ながら、事業やプロジェクトにおいて全体の中でデザインや個々人のクリエイティビティがどのように活かされるかに責任を持たなければなりません。こういったことを考えられる人材を意識しています。企業のCDOはハードルが高いかもしれませんが、例えばそれはプロジェクトの単位からスタートしても構わないと思います。

国内でクリエイティブとリーダーシップを掛け合わせているのは、造形構想だけという印象があります。

クリエイティブを武器にして社会を変えていくためには、リーダーシップが必要です。本大学院では学部(クリエイティブイノベーション学科)において培った広義のクリエイティブ能力を持って、社会に対してインパクトを与えるという意思を持つということからリーダーシップという言葉を選びました。また、リーダーシップという言葉自体、「率いる」ニュアンスが強いと思いますが、我々は「アントレプレナーシップ」と近いものとして捉えています。ただ、アントレプレナーシップというと、どうしても「会社を立ち上げる」と捉えられてしまう。実はグローバルには、アントレプレナーシップは主体性を持って自分で切り開くことを意味しています。こういった新しいリーダーシップ像も提示していきたいと思っています。