私たちの大学院は、デザイン、ビジネス、アントレプレナーシップの経験が少ない学生も受け入れています。本校の芸術工学部を卒業し、すでにデザインを学んだ学生もいれば、別の学部出身の学生もいます。我々は、基礎的なデザイン課程と、ビジネス、アントレプレナーシップ課程をどのようにつなげ、提供するかという点について強い懸念を抱いています。

これは良い指摘ですね。というのも、それは我々も時々考慮しなければならないジレンマの一つでもあるからです。例えば、グラフィックデザイナーや服飾デザイナーのようなデザイナーを目指す人は皆、そのデザイン専門職における基本的スキルや技能を学びます。私たちは、デザインの専門職と聞いて通常連想するような基本的なデザインスキル、例えばドローイングの方法などは教えていません。その点が本校をデザインスクールだと思っている人を時に当惑させています。そういう人は、ソフトウェアデザインを当校が提供すると思い込んでいたりしますが、そのようなことは全くありません。デザインでは、主に問題をいかにして解決するか、世界についてどう考えるか、複雑な課題にどう取り組んで対応するか、というところから入ります。

あなたの問いを別の角度から見ると、デザインスクールとビジネススクールのハイブリッドであるKaospilotが何を提供しているのかという点に目を向けると良いと思います。当校で力を入れているのはリーダーシップ―社会的なインパクトに特に目を向けた組織的なリーダーシップですクラシカルなデザインスクールとしての提供物に関しては、経験、サービス、ブランドデザインの分野で対応している部分が多いです。しかし改めて言うと、問題をいかにして解決するか、世界をどう見るかという部分を圧倒的に重視しています。

もう一つの側面として、ビジネススクールとしての提供物は、アントレプレナーシップと組織開発、そしてプロジェクトマネジメントに関することがほとんどです。よって、クラシカルなビジネススクールに比べて本校は、財務や会計に比重はかけておらず、マーケティングなどに多くの時間を割いています。

本校では、実践を通じた学習を主眼に置いています。実践を通じて内省し、理解を深めるために理論を用いることで、我々の活動の本質的な価値が生まれます。学生はリアルなプロジェクトを通して学んでいきます。プロジェクトは常に複雑で、解決するには、単一のスキルセットや本を読むこと以上のものが求められます。自身のクリエイティブな面と分析的な面を統合させ、その人が持つ特定の知識、例えば、マーケティング、人との接し方、意思決定などを組み合わせて適用する必要があります。

3年間のプログラムを受けるプロセスは、プロフェッショナルなレベルだけではなく個人としてのレベルの向上に役立ちます。人生を飛躍させるものと捉える学生もいます。学生は各自様々な抱負や経験、専門知識を抱えてやってきます。本校で、進むべき方向を切り拓き、多くの新しいものを習得し、それぞれが望む人生を築き始めます。そして多くの場合、そのために、学生はデザイン原則を利用するのです。

備えているスキルは人それぞれで、特定の分野の知識レベルに関しても、一人ひとり実に様々です。ビジネスは、その良い例です。ビジネスの基本的な知識とスキルを測るのは実際簡単なことですよね。会計とはどういうものか知っていますか?損益計算書を準備することができますか? 学校では、全員が同じレベルに到達するように、非常に基本的な科目群を提供しています。しかし、おそらく35~40人うち5~10人ほどは、スタート時点ですでに非常に高いレベルにいます。そのような学生にとって、これは退屈で的外れな教育となってしまうリスクは常にあります。

そのようなことは、本校に入学した数名のデザイナーにも当てはまります。本校の学生のうち、何人かはスタート時点ですでに完全な学位を取得しているレベルにあります。このように特殊な課題があることから、本校には、この課題を解決する3つの重要な教育学的原則を用意しています。

1.自分が乗り越えるべき壁を自ら設定すること。自分にとって十分な学習課題となるレベルを、学生自らの責任で見つけることを意味します。乗り越えるべき壁が低すぎたら、自分で上げる必要があります。

2.実践は大きなイコライザーであること。教育は実際のクライアントを伴うプロジェクトであるため、それまでに身につけた知識が非常に役立つかもしれないし、すでにエキスパートであるかもしれないとしても、新たなタスクや新たなクライアントに当てはめた場合、自分にとっての挑戦とならない可能性は低いことを意味します。

3.自らが教師でもあること。全ての学生がそれぞれ異なる経験と知識が備えていることを考えると、彼らは仲間にこれを共有することを期待されています。ある人が持つ専門知識がグループ内の他の人を助けたり、その逆のパターンも、プロジェクト内でしばしば起こります。

その上で、本校では全員が専門知識の有無にかかわらず、プロジェクト内での役割を見い出しています。

その科目群の提供のされ方は非常に興味深いですね。問題は科目群、特にリーダーシップをどのようにデザインしていくかという点にあると考えています。本を読んで十分というものではありませんし、実践を介して学ぶ必要がありますね。

まったくもっておっしゃる通りです。アントレプレナーシップのデザインに関して、スタートアップ企業で働く場合のことを考えると分かりやすいかもしれません。そのような会社では、他の起業家と同じように現実のジレンマや課題に直面するわけで、そこで実際的な練習をしていることになります。

リーダーシップのトレーニングに関しては、状況はまったく異なります。レゴ社に電話して「うちにスウェーデン出身の21歳の学生がいるのですが、そちらで3ヵ月間仕事を与えていただけませんか?彼女は貴社でリーダーになれるはずの人材です」などと言うことはできません。そのようなことをしてもうまくいきません。私たちのレベルでのリーダーシップは、自律、チームやプロジェクトの牽引に関係しています。リーダーシップ能力は様々な方法で構築されます。

1つの方法は、リーダーシップの様々な側面に関する講義です。その後、研修を行います。つまり、リーダーシップそのものについてのみならず、その方法についても学びます。ここでの明示的なスキルはおそらく、プレゼンテーション、意志決定、フィードバックの与え方と受け取り方、会議やワークショップのまとめ方、ビジョンなどの立て方といったことでしょう。そのとき、講義や研修にとどまらないものをプロジェクトから学びます。ここでは、学生は仲間だけではなく、クライアントや様々なステークホルダーと協力します。学生は彼らをまとめ、信頼関係を築き、モチベーションを持って仕事に取り組む必要があります。リーダーとして仕事に臨む以上、あらゆる局面への対応が必要になります。

私たちは、プロジェクトの基準を学生だけではなく教員にも分かりやすいものとして設計する必要がありますね。

過去には本校も今のあなたと同じような課題を抱えていたことがありました。当初は検証済みのフレームワーク、つまり言語やモデルがなかったためです。それも時とともに進化してきました。

まず、リーダーシップに関する段階と、学習の形式を評価する方法を設定するにあたって、私のノルウェーの友人の設計に基づいて、能力モデルを開発しました。彼は、1つのプロジェクトを成し遂げるためには、単なる知識の域から飛び出して能力の開発に焦点を絞る必要があると考えています。

まず、知識的能力は、プロジェクトを遂行するために必要なものの一つです。当然のことながら、今自分がしていることがどういうことなのかを把握することも必要です。しかしながら、社会的能力も必要です。他の人と心を通わせ、彼らのサポートを得て、提携関係などを築けるようにしておく必要があります。

さらに、行動的能力も必要です。プロジェクトを成し遂げることが必要なのです。プロジェクトについて知っているだけでも、あるいは多くの知り合いがいるだけでも不十分で、行動する必要があります。最後に、適応力が必要です。あらゆるものが変化し、計画通りに進むことはほとんどありませんし、物事が厳密に計画通りに進むことは少ないです。曖昧さや不確実性に対して順応し、快適に仕事に取り組めるようになる必要があります。

これらの能力は、プロジェクトや状況に関係なく活用されます。様々なシチュエーションにおける学習プロセスを検討、理解する際に役立つ評価基準がこちらです。

本校にとって、評価基準はカリキュラムにしっかりと根付いたもので、学習目標や教育上の戦略や評価に結びついていることが非常に重要です。また、比較的把握しやすく伝わりやすいこと、また公平で、既存のプロジェクトに順応しやすいことも求められます。 現在、本校では原則は同じですが、より複雑なものを作成しています。というのも、これらが我々にとって非常に一般的なものとなったためです。

評価基準を見るにあたって、もう一つ非常に重要な側面があります。それは学生の自己評価です。評価するのはスタッフではありません。自分自身の仕事を評価するのは実は学生で、この評価基準が非常に役立ちます。というのも、これが学生たちの仕事の様々な基盤を網羅するのを助け、批判的思考法に対する各自の能力を高めるためです。実際には少し単純化して、各自の仕事を評価し、評価表を提出し、成績をつけるよう学生に指示します。例えば、あなたは評価を受けるに値すると思いますか?自分はA、B、Cのいずれに値すると思いますか?といった具合です。

これは実は、学生に成長することを求めるものです。学生は自らの成果に対して驚くほど誠実で公平であることが多いものです。実際の評価が学習機会でもあり、当校ではこのことを1日目から非常にしっかりと定着させます。プロジェクトが終了しているという理由だけ学習を終了させることはありません。評価をしてはじめて継続学習の源泉となります。

2019年に行われたプロジェクト評価項目

3. ASSESSMENT/EVALUATION CRITERIA:

A – THE SELF
1. Communication:
• The ability to clearly communicate your project, in both written (report) and oral (presentation) format.

2. Practice Enterprising Leadership:
• The ability to be aware of, reflect-on and learn from your own development as an Enterprising Leader in
your project and it`s related stakeholders.

3. Routines and Practices:
• The ability to develop relevant routines and practices, during the project period, to support yourself and the Pilot Project movement in the right direction.

B – THE PROJECT
1. Concept / Results:
• The ability to create a concept of holistic value and realistic scope, to achieve relevant results.

2. Research and Exploration:
• The ability to enter your project field, explore the context and stakeholders to create understanding as the project leader.
• The ability to synthesize research into new ideas related to their solutions.

3. Situational Methodology:
• The ability to apply relevant methods and theories from the Kaospilot domains as needed in the project context.

4. Testing and Validation:
• The ability to experiment, test and prototype possible solutions with relevant stakeholders / target audiences.

5. Action and Execution:
• The ability to use an enterprising mindset to seek out opportunities and foster progress in your project.

C – THE WORLD
1. Create Value and Impact:
• The ability to understand the need and act on creating a solution that adds multiple values.
• The ability to understand the impact of that value you created.

2. Collaborate and Contribute to a Community:
• The ability to create and maintain a community of collaborators and supporters (advisers, mentors and
guides) around your project.

3. Develop a platform for your future:
• The ability to create a portfolio of your work in 3rd year for 6th semester only (and 1st and 2nd year are optional) to show your abilities and character as an Enterprising Leader and KP student. (The portfolio
only includes your KP projects with a minimum criteria of 6th semester, which should be posted as a digital version on the KP website)