私たちは本学府をSTEM*ビジネススクールと呼んでいて、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathmatics)、これらの領域の一つ一つが重要です。独自性を出すため、私たちはSTEM領域の学位を持つ人々を主に集め、ビジネススキルを教授しています。学生には事業計画を作成し、貸借対照表やキャッシュフローについて理解し、賢いリスク管理を行えるようになることが求められます。その上で、彼女ら彼らが有するSTEM領域の背景知識は、特に現代のデジタル社会では大きな強みとなります。例えば、私たちが得意とする、ビッグデータ技術を用いたマーケティング分析は、所属学生の専門的な学歴や経歴によって可能となったものです。

* STEM = 科学、技術、工学、数学(Science, Technology, Engineering, and Mathematics)

私たちは、領域横断的なコラボレーションも重要視しており、通称「i-Pro( interprofessional project)」と呼ばれるプログラムを実施しています。「i-Pro」では、一定期間にわたって様々な大学の学生がそれぞれの専門性を持ち寄って協力し、自分たちの共通項となる課題を取り上げ、それをビジネスとして解決するイノベーションを創出していきます。学生だけでなく、教員も領域横断的で従来の枠にとらわれない学習へのアプローチを追求しています。例として、最近本学では、新たにIBMのスキルアカデミーと提携し、希望する教員が、アカデミーでIBMワトソンや他のAIモジュールを利用したビッグデータ分析など、教育現場におけるテクノロジーの活用について2週間の研修プログラムを受講できる仕組みを導入しました。実際には、ほぼ全ての教員が手を挙げて受講しています。

また、私たちは地元であるシカゴの特色ある歴史背景や立ち位置も大事にしています。例えば、シカゴは世界有数の金融の中心地です。それゆえ必然的に、本学も金融分野を得意とし、そのことが学生の「quants*(クォンツ)」スキル、すなわち高度な統計分析の知識やスキルの向上にもつながっています。こうした様々な取り組みを行う一方で、私たちはSTEMとビジネスという本学の強みを、フルに活かしてきました。こういった努力により、本学はワールド・レポート発表の世界大学ランキングトップ100校に選出されたほか、AACSB*認証も取得しています。

*quants=金融業界において、高度な数学的手法や数理モデルを使って、マーケットを分析したり、投資戦略や金融商品を考案・開発したりすること、もしくはその専門家。

*AACSB (The Association to Advance Collegiate Schools of Business)=マネジメント教育を推進する世界で最も権威あるビジネススクール認証機関の一つ。1916年にアメリカで設立され、年間100を超えるビジネス・リーダー養成講座などを開催し、世界各地で研究や教育の発展に資する活動を行う。 国際認証AACSBを取得しているビジネススクールには世界の著名な大学が数多く含まれており、認証校の学位は世界中で認められる。

STEMとビジネスのように、領域横断的な学習を推進する上での大きな課題の一つは、それぞれの領域で是とされる教育方法に大きな違いがあるということです。どのように教育を行うか、何を学習すべきか、そしてどのように学習成果を測るべきかといった基準は、分野によって様々です。例として、ビジネススクールでは「the Sage on the Stage(壇上の賢人)」型で講義が中心ですが、デザインスクールや一部の工学系大学などは「Guide by Side(寄り添う案内人)」型でワークショップや実習を多用します。また、ロースクール(法科大学院)では、ソクラテス式問答法を用いて、質問やディスカッションを通じて学生の学びを深めています。

どちらが正しく、どちらが間違っているかではなく、授業形式の違いによって学習体験も変わるということなのです。本学府では様々な授業形式を用い、さらにオンライン教育やeラーニング技術も取り入れることで、学生がその時々に応じた最良の学習をできるようにしています。その上で教員もお互い、特に他領域の教員から学ぶことに意欲と関心を持つことが非常に重要です。一部のプロジェクトでは、ほぼ常に学生をグループで作業にあたらせています。体験型学習がカギなのです。琴線に触れるような実体験もない、講義や理論だけの学習ではうまくいかないばかりか、害にすらなり得ます。

先ほど申し上げた通り、本学府はSTEM特化型プログラムを多数備える、世界でも数少ないビジネス・スクールの一つです。多様なバックグランドを持つ学生を多く受け入れているため、同規模の典型的なビジネススクールに比べ、はるかに多様性に富んでいます。そして、我々の教育における優先順位は常に学生にあります。我々が作ったカリキュラムの型に学生をはめ込むのではなく、彼女ら彼らの学習ニーズに合ったプログラムを設計しています。私たちのこうしたアプローチは、これまで成功していると思います。多くの卒業生は素晴らしいキャリアパスを歩み、GoogleやAmazonといったテック企業に進む人や、より研究を土台としたキャリアを求めてベル研究所やIBMワトソン研究センターに進む人もいます。しかし何よりも、テック系スキルを持ち、事業経営について本学府で学んだ卒業生の多くは、自ら起業しています。IITのMBAプログラム修了生は、テックベンチャーの創業・経営に向いているのです。