御社のグループには様々な職種がありますが、求められる人材について教えてください。

山口:
今後より必要になってくるだろうということも含めて申し上げると、変化に適応してすぐにキャッチアップして成果を残していける人かなと考えています。目の前の事業環境や商品、サービスのライフサイクルがどんどん短くなっているということも当然ありますが、今ソニーがやっている事業は10年後15年後も同じことやっているかというと全く分からないですし、変わっていることも前提にしておくべきだと思っています。

新卒採用は、入社してすぐの活躍ももちろん期待したいけれど、どちらかというと中長期目線で核となる人材に育っていってもらう意味合いが強いことを考えると、今の目の前の業務だけでなく環境が変わっても柔軟にキャッチアップしながら活躍していただけるようなポテンシャルを持っている人が求められていると思います。

浅井:
社内でよく話題になるのは「課題を発見する力」です。事前に課題が何かを分かっている場合、その課題を解決することも大事ではありますが、それよりも、今後は「何が課題になるのかを見抜く力」がとても大事になってきていると感じています。世の中が不連続に変わっていくと、課題発見の難易度が格段に上がります。今日課題だと思っていたことが、明日は課題ではなくなる、そのぐらいのスピードで世の中は変わっていきます。そんな環境下で、新しい環境に飛び込んでは、問題を発見し解決していく。それを繰り返し再現性を持って実践できる、そういった素養がある人がいいですね。

御社はイノベーションセンターの先駆けで、御社の成功事例が語られることはあっても、他社の例はなかなか出てきません。御社の成功の秘訣について教えてください。

浅井:
ひとまとめに成功の秘訣が何かを語るのは、なかなか難しいところですが、一つあるとすれば「チャレンジする文化」です。ソニーは、新しいこと、またそれにチャレンジすることが好きな風土があります。創業者の一人である井深さんが設立趣意書に書かれた「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」、この思いが創業後70年を経過した今も脈々とソニーのDNAとして社員に共有されています。

ソニーの伝統として、「机の下活動」ともよくいわれますが、業務の合間や終業後などの業務時間外に担当するプロジェクト以外のものづくりに挑戦している人がいて、それが事業に結びつくこともありました。ただ、組織が大きくなるにつれ、効率化や市場に対するアカウンタビリティなどが重視される過程で、そうした“遊び”は徐々に小さくなっているかもしれない、そんな課題感がありました。そこで、ソニーのチャレンジ精神を体現させる場として、スタートアップ創出と事業運営を支援する「Sony Startup Acceleration Program(SSAP)」をスタートさせています。

山口:
SSAPは人への投資といった狙いも強いと感じています。面白いアイディアを支援するのはもちろん、「この人にやらせたら面白そう」という考えもあります。新規事業は、アイディアの良さだけでなく「この人に任せたらうまくいく」とか「この人だから」といった「人への支援」もポイントではないかと感じます。優れた人材がアイディアを生み出し、意欲を持って行動しないとイノベーションは生まれないからです。例えば、ソニーの中では新卒1年目で事業アイディアを出して、2年目から事業責任者となり統括課長を務めている方もいます。

浅井:
SSAPは、事業化をして、ビジネスとしてソニーに貢献することはもちろん、人材育成に寄与している要素もあります。組織が大きくなるにつれ、どうしても若い人材が一気通貫で事業を経験できる場は少なくなります。例えば、テレビやヘッドホンなどのブランデットハードウェアと呼ばれる領域は、ソニーが長年培ってきた技術・経験をベースに大きなビジネスに育っています。売上も大きい分、その事業に注力している人数も多くなり「一気通貫の経験」のハードルは高くなります。一方、自分が立ち上げた新規事業であれば、自分が事業責任者として、事業プラニングから製造、販売、マーケティング、ファイナンスなど、何でもこなさないといけません。SSAP内のアクセラレーター(新規事業の専門家)のサポートを受けながら行う、こうした経験は、将来必ず役に立つと思います。将来のソニーを背負う人材が、こういったプログラム経験者から出てくることも期待しています。

他にも特徴的な人材育成手法はありますか?

浅井:
人材育成の課題の一つは、グループ経営ができる人材の育成です。ソニーはエレクトロニクスをはじめ、エンタテインメントや金融まで、幅広い事業を行っています。ここまで異なる事業体を持つ会社というのは、グローバルでもとても珍しいと思います。グループを牽引するリーダーも、放っておけば勝手に育つものではなく、海外経験や異業種事業の経験など、チャレンジングなアサインメントを与えたり、メンターをつけたりなど、計画的かつ意図的に育成をしていく必要があり、それを進めているところです。