ご経歴と現在のお仕事について教えてください。

私は戦略ファームのベイン・アンド・カンパニーでコンサルタントとしてキャリアをスタートしました。その後、IDEEというデザイン会社を経て、起業して会社を2つ立ち上げ、上場もさせました。現在は、シグマクシスでプラットフォーム戦略のイニシアチブを司るチームのディレクターを務めています。

イノベーションを牽引する中で、特に醍醐味となるところは?

チームメンバーには、「この企業のために」と働くのはイノベーターではない、と伝えています。社会のために何ができるか、未来を見据え、そこで何が必要になるかという観点から逆算して考え、動いてこそ、イノベーターなのだと。このように社会を見ながら大きなスケールで物事に取り組めることが醍醐味ではないかと考えています。

企業やその部署の個別の課題を解いても、結局モグラ叩きになってしまうんです。例えば、ある企業の課題を解いたとしても、別の企業にとっては、それが競合となり、市場の新たな動きという課題として浮上する。すると今度は競合企業にソリューションを提供して、同じことを繰り返すことになる。イノベーターは、「企業」というスケールを超えて、業界全体、社会全体の問題を見極め、解きにいくべきなのです。

私はよく「無意識」と表現しますが、社会の多くの人々が何となく感じている、待ち望んでいる何かが、常に存在すると思います。しかし無意識ゆえ、それが何なのか誰も気づいておらず、言語化もされていない。イノベーターは、そこに最初に手を差し伸べて形にする。「聖杯を拾う」とも表現していますが、「こういうものを求めているのではないですか」「これが必要なのではありませんか」と問いかけ、新しい世界観への気づきを与え、実現していくのです。

こうした想像力は、デザインによって支えられる部分が大きいと思います。頭で考えてパワーポイントのスライドを何枚も作るだけではなく、手を使って具体的にビジョンを形づくっていく。そういう“クリエイティブの筋肉”は、デザインのアウトプットをひたすら出す中でしか身につかないように思います。ゆえに、デザイナーとしての能力とイノベーターとしての能力は、極めて相関性が高いと思いますし、私自身、デザイン会社での経験がこの仕事に活きています。

 

その“クリエイティブの筋肉”を要素分解すると?

インテリジェンス、プロトタイピング、リレーションシップ、オブザベーション、ビジョニング、エグゼキューション、この6つです。

インテリジェンスとは、真の「情報」に対する感度。「世界で今、何が起きているか」「人々はどう考えているのか」など、ネットには落ちていない情報に対してアンテナを張り、情報を集める能力です。ここから得たヒントをもとに、手を動かしながら新たなサービスや商品のアウトプットを模索するのがプロトタイピング。形になったら他の人に見せて議論することが、リレーションシップです。議論を通じ、世の中から本当に必要とされているものなのかを見極めるべく、改めて社会を見渡してみる。その際に大事なのがオブザーブです。人は日々様々なものを見ながらも、実は本質をしっかり捉えていないことが多いため、鋭く粘り強い観察を行います。オブザーブにより、活動のビジョンを見出し、明確にし、最後にエグゼキューション。実行して、あきらめずに最後までやり切ることです。

そうした人材を育成するには?

育成にあたって、一番簡単ですぐ目がいくのはWHAT=何をやるのか、です。「デザイン思考をやりましょう」「いや、それはもう古い。これからはアートだ、創造性だ」、少し前だと「ビジネスモデルキャンバスだ」「リーンスタートアップだ」とか。要素やメソッドの名前合戦になりがちです。

しかし、大切なのはWHATよりもWHY=なぜやるのか、そしてそこから敷衍してのHOW=どうやるのか、だと私は考えます。WHYとHOWの2つをしっかり押さえていれば、ある意味WHATというのは無限にあり得て、どれでもいいのです。

先述のクリエイティブの筋肉を構成する6要素でお話してみましょう。

例えばイノベーターの活動の理由、つまりWHYは、社会の課題を解くためです。そのためには、HOW=どのように活動するべきかに落とし込んでいきます。まず課題を設定し、未来がどうなるかを見通して、そこから現代を振り返ったときに足りないものを見つける必要がある。そこにはインテリジェンスが必要となる。そして今はまだ存在しないものについて議論するには、目に見えて手に取れる形にすることで共通理解ができる必要がある。よってプロトタイピングを行う。このように、WHYから始めて、HOW、WHATにつなげる。このような育成プロセスを、育成側がしっかり語れるかが、何より重要だと思います。