はじめに、ご経歴を教えてください。

スタンフォード大学大学院でエンジニアリングを研究するなかで、「デザイン思考」を世界的にリードする組織として知られるd.schoolのプロジェクトや国際的な産学連携プロジェクトの「ME310」に参加していました。大学院修了後、フランスでParis Est d.schoolの立ち上げや、ME310のフランスでの展開に協力しました。2014年に京都工芸繊維大学が設立したKYOTO Design Labの特任准教授として着任し、現在はデザイン・建築学過程の准教授として、スタンフォード大学以外とも協働するグローバルイノベーションプログラムとなった「ME310/SUGAR(以下、ME)」や、京都に世界中から起業に関心のある学生が集まり、2週間でスタートアップに必要な知識とスキルを学ぶ「Kyoto Startup Summer School」を主宰しています。

「ME310/SUGAR」とは?

スタンフォード大学発祥で、異なる2ヵ国の大学から参加する学生が1つのチームを組み、企業から課されたテーマをもとに製品やサービスを開発するプロジェクト型学習(Project-Based Learning、PBL)プログラムです。D-labでは、毎年2-4つ程度のプロジェクトがあり、8-16名程度の学生が本学から参加しています。

毎年9月から翌年6月の9ヶ月に渡るプロジェクトは、世界中の参加大学が一同に介するキックオフから始まり、カリフォルニアでの展示発表で終わります。。キックオフ会場は現在持ち回りとなり、2018年と2019年は中国で、2020年はD-labが主催となって京都で実施される予定です。
過去に協働したパートナー企業には、ANA、ヤンマー、BMW、さらにはローカル企業など、国内外の大小さまざまな企業が挙げられます。。パートナー企業は渡航費やプロトタイピング費などの予算を全て負担しますが、コンサルタントなどへの外部発注プロジェクトとは異なり、担当する社員が参加学生と並走することでデザイン思考のプロセスを体験することが魅力だと言われています。
2016-17年度にヤンマーと取り組んだ、水上パーソナルクラフト「Weeebo」は、ME310/SUGARのプロジェクト期間終了後も継続した開発がおこなわれ、最近にはグアムなどのマリンリゾート地で展開されると正式に発表がありました。参加した学生たちの努力が結実した良い例だと思います。

国際的なコラボレーションを通じてイノベーションに取り組むとき、必要になるスキルや素養とは?

最低限の語学力というのはもちろんあります。その上でやはり不可欠なのは、行動力と自分の専門領域外のことでも食らいつく力、へこたれないこと、新しく学ぶ力、そしてコミュニケーションですね。

いまあげられた5つ、それぞれについて詳しく教えてください。

MEのプロジェクトでは、企業から課されたテーマはとても抽象的で、具体的にどのようなプロダクトやサービスを提案してするのか漠然とした状態からスタートします。学生はリサーチの対象や方法、プロトタイピングを考え実行する行動力が必要です。小さな試行錯誤を積み重ねていく中で生まれるアイディアは技術的、経済的理由で企業からダメ出しがあったり、ユーザーからも「そんなんいらんやん」というつっこみでどんどん潰されていきます。それでもへこたれずに泥臭く前進していくことを、短い期間の中で学んでいくのです。
専門外に食らいつくというのは、新しく学ぶ力と直結しています。ME2018-2019のプロジェクトでは、F1やヘリコプターに使われるような超ハイエンドなボルトを制作する企業から、センサーのついたボルトを用いた新たな事業領域を探すことが求められました。参加学生はあちこちフィールドワークや、専門家へのヒアリングをする中で、遊園地のジェットコースターに行き着きました。センサーのついたボルトを使うことでメンテナンスの効率化や、検査期間を延ばせる可能性が発見され、学生はこのボルトを用いた新たなメンテナンスサービスのデザインを提案しました。デザインの学生からするとずいぶん遠くに来たなという感じですが、そのように自分が全然知らなかった世界を学びながら切り拓いていく力は絶対必要です。

 

最後にコミュニケーション。MEでは、外国のチームメンバーやパートナー企業の方々とSkypeやSlackで毎日のようにやり取りしますし、打ち合わせも頻繁に行います。チーム内で意見が合わなかったときに、きちんとディスカッションをして進めていく必要があります。日本は丸く収めるというか、問題をなるべく見せたがらないことが多いので、問題を隠さず、オープンに解決していこうという姿勢と覚悟がいりますね。

プロジェクトを通してどういうスキルが身につきますか?

MEのプロジェクトそのものが育成の場になっているため、参加学生は、無から何かを生み出す、いわゆるゼロイチの開発の方法論が身につきます。本学は様々な課程から学生が参加していることもあり、これまでに学んできたスキルを組み合わせ、学際的かつ国際的なコミュニケーションを通じて、リーダーシップやファシリテーション能力なども伸びているように思います。