IAMASにおける独自の教育メソッドについて教えてください。

分かりやすいところでは、『アイデアスケッチ』です。本の中でも書いたのですが、アイデアを出してみんなクリエイティブになりましょうという観点では、既にいろんな人がワークショップをやっていて、いろんな方法があり、何でもいいんだと思うんです。でも、アイデアスケッチの目的は、ランダムなアイデアを数多く出すことではないんです。

なぜアイデアスケッチをやり始めたのかをたどってみると、同僚のJames Gibsonがもともとロンドンのデザインファーム、世界で最初にサービスデザイン企業を宣言した「Livework」にいたんですよ。彼らがクライアントワークをやる上で何が難しかったかというと、クライアントからいろいろとヒアリングをした上で、彼らなりにベストな案を出すけれど、実行されないということが頻発したんですね。

なぜなら、オーナーシップ(当事者意識)とアドボカシー(庇い守って何とか実現したいと思う気持ち)を持っていないから。ラディカルな案であればあるほど、本当にうまくいくかどうか分からないし、弱いところを突くのは簡単なので、赤子の手をひねるみたいなことが頻発していて、ではやり方を変えようと。ステークホルダーの中でも重要な人たちを呼んで、一緒にアイデアを作るところからスタートすることにしたんです。みんなでアイデアを出すというフラットな環境を作るために簡単なルールを決め、それに沿って絵を描く。すると、誰が何を書いたのか、ぐちゃぐちゃで分からない状況の中で、アイデアがだんだん組み合わさりながら醸成されていく。同時に、「あれ、俺立ち合ってたもんね」というマインドが生まれてくることで、ブラッシュアップした案をクライアントに返した後に実行される可能性が高くなったそうなんです。

この手法はしばしば、単にアイデアをたくさん作り出す手法だと誤解されます。実際、Jamesが学内でやり始めて展覧会でも紹介し、アイデア出しの手法として面白いですねといった感じで外部から注目され始めたとき、私自身では合意形成の効果をそんなに意識してなかったんです。だけど、いろいろやっていく中で、なぜこれがうまくいくんだろうと思ってJamesに聞いたところ、「もともとそうだよ」「ごめん、理解してなかった」というやりとりがあり、これはちゃんと本にしなければと『アイデアスケッチ』を共著で書いたんです。

チームマネジメントやコミュニケーションなど、どうやってプロジェクトをまとめるノウハウを学んでいくのでしょうか?

社会人経験者が全体の3割から4割を行ったり来たりという状況で、そういう人たちにはいい面と悪い面があります。通常業務においては、要件や要求を与えられ、納期と制約条件から逆算して間に合うように作ることを繰り返しやらされています。そうした経験から入学直後のグループワークでも、「要求仕様は何ですか」「何をクリアしたらいいですか」みたいなことを聞いてくる人が多いんです。それは別に悪気はないと思うのですが、今までやってきた仕事の感じで進めると、最終的にはそれなりの質で仕上がるんですよ。仕上がるんだけれど、これってただの仕事だよねというか、それを超えるものはなかったりします。

社会人経験者とそういう経験を持たない学部から直接来るような学生が混ざると、コンフリクトが起きます。片やできる範囲でしかやろうとせず、できあがるし質が担保される。片ややったことないから訳も分からず失敗するかもしれないけれど、とんでもなく面白いものが出てくる可能性もある。そういう人たちがなるべく混ざるようにすることによって、お互いぐちゃぐちゃするんですよ。「こんなのこの通りにやれば、6時までに終わるよ」「なんでそうやるの?」みたいなことが起きる。でも、それをやることによって、自分は今まで安全なエリアでしかやっていなかったことを認識し、そこからはみ出すときに、「やっぱりありだよね」「だいたい俺はなぜ会社を辞めてここにきたんだっけ?」みたいな話になり、1回自分が覚えてきたものをある程度アンラーニングできる人もいます。本当はここを効率よくやれるようなメソッドがあるとすごくいいんだろうなと思いつつ、まだそこまではうまくいけてないですね。

リスクを取るとかチャレンジするというのは、やはりアントレプレナーシップの一つの醍醐味。そういうところがないと、今できることで終わってしまいますね。

実際、今年の新しいプロジェクト(IAMASがカリキュラムの中心と位置づける実習型授業)では、ゴールだけ示して、あとは勝手に進めてもらうようにしています。その過程で失敗することも多いだろうけど、そこから学ぶことも多いと思っていて、安全な範囲で失敗の経験を何回か積めることを想定しています。