京都大学デザインスクールの特徴について教えてください。

デザイン学を共通項に、情報、機械工学、建築、経営、心理という5つの部局が協力してプログラムを提供しています。学生は、それぞれ主とする領域がありつつ、他学部の授業を履修したり、デザインスクール独自のプログラム――例えば、オープンイノベーション実習といった、企業や地域など現実の課題に対して半期でソリューションを作るものなど――に取り組みます。

修了生については、起業する者もおりますし、あるいは当該領域では珍しい進路をとるケースもあります。心理学の博士号を取りながら、人工知能分野でよく使われるプログラミング言語のPythonや3Dプリンタの技術を身につけて、技術系の企業で仕事をしていたりもします。

デザインスクール立ち上げのきっかけは?

2011年3月の東日本大震災直後、何かしなければということで社会課題解決のワークショップを開催しました。その発起人であった石田亨先生が、デザインスクールを作ろうと呼びかけてプロジェクトが動き出しました。その時点で、異なる領域の学問をデザインという一つのキーワードで括ろうという構想はありましたね。

複数の学問領域を融合していく中で、「デザイン」をキーワードにしたのは?

あらゆる領域、とはいってもデザインスクールに関係している5つの部局に関してですが、やはり「デザイン」というのはどんな領域でも外せないという認識に尽きます。建築学の伝統的なデザインや機械工学におけるプロダクトデザインはもちろん、情報科学においてもシステムデザインや人と機械のインターフェース、HCI(Human-Computer Interface)が入ってきます。心理学に関しては、例えばもともとは認知心理学者のドナルド・ノーマンという学者が人間中心設計や感情的なデザインについて影響を与えていたり、経営学については、ビジネスモデルや組織、コミュニティデザインなどがある。それらを一つにまとめる旗頭として「デザイン学」はとてもいいと思います。

デザインスクールの運営上、ご苦労されているところは?

時間と場所ですね。時間については、複数の学部から学生が参画するとなると、それぞれの授業と一切重複しないようにデザインスクールのカリキュラムを組むのは不可能で、どうしても希望する授業を受講できないことがある。

場所については、一部の学生は京都市の反対側にある桂というところにいるため、移動が問題になります。また、助成金があった昨年度までは、この京都駅から2駅ほどのところにある京都リサーチパークという施設を利用させてもらっていたのですが、それも今後はなくなるため、学生が一ヵ所に集まるスペースの確保が喫緊の課題となっています。

その他にも、これは難しかったというご経験はありますか?

一時、京都市芸大と一緒にプロジェクトを実施したことがあり、そのときは学生が苦労していましたね。やはりお互いのプロトコルが違って、例えばあるテーマについて、京都大学の学生はリサーチをして分析したらそこで終わり。しかし、芸大生はむしろそこからがスタートで、それに京大生が困惑したり。京大生同士の場合、専攻が違ってもそれほど問題は生じないんですが、その枠を一歩出た「他者」とのコミュニケーションは、それこそ実社会に出たら一番重要になってくるところですからね。

海外でも、我々が連携しているデンマークのコペンハーゲンビジネススクール(CBS)が、デザイン系の学校と協働するプログラムをやっています。経営学の学生とデザインの学生が一緒にプロジェクトをやっています。多様性とコラボレーションというのは、世界的にも重要視される流れにあると思います。

振り返ってみて、デザインスクール成功の要因は?

いきなり大掛かりな組織を作るのではなく、まずワークショップ、そしてサマースクールと、人を集めて何かをやったという実績、関係者のノウハウと経験構築から入ったというのが大きかった。国から予算をとって、お金を配ってというパターンは結構ありますが、それだと結局何も動かないし変わらない。そうではなくて、まず動かして、それからやり方を少しずつ改善していく。まさにデザイン思考のプロセスで、それが良かったのかなと思います。