最初に、ご経歴と現在のお仕事について教えてください。

大学を卒業した後、IBMに入社し、システムエンジニア、営業、コンサルタントの仕事に従事していました。現在は、シグマクシスでAIチームのディレクターを務めています。

今のお仕事で、特に醍醐味となるところは?

AI導入支援、AIを軸にした組織開発、そして、業界規模のAIサービス開発の3つを中心に活動しています。AIは、テクノロジー領域でありつつ、まだサイエンスの色が濃い領域のため、誰もがすぐに使いこなせるわけではありません。作ってお渡しして「あとはお客様のよしなにどうぞ」とはいかないケースが多く、導入支援とともに、AIを活かせる組織づくりからお手伝いをすることもあるのです。また、せっかくAIを導入するのであれば、特定の1社、1部門でしか使えないものをあちこちで開発するよりも、業界全体、または業界をまたいでサービス化すべきだと考えています。

こうした活動の中で感じるのは、あらゆる業界でこれまでの常識が変わりつつあるということです。ある企業の知財管理本部では、自らの事業に関係する論文を探し、内容を確認した上で関係部署の人に渡すという業務があり、論文1本あたり読むのに何週間もかかるケースも少なくありません。それがAIの導入によりものの数分で処理できるようになると、知財部の人材は知財戦略立案などのよりクリエイティブな活動に集中できるようになる。このような革新的な変化があちこちで日々起きているのを実感できることが、我々の仕事の醍醐味だと思います。

そうした新しい時代の中で価値を創造するとき、必要になることとは?

まずは、様々な分野の知識を身につけることです。AIを介して様々な分野がクロスオーバーすることが多いため、自分の専門分野や興味の範囲を超えて、視野を広げて物事を見知っておくことが大事です。専門家になる必要はありませんが、困りごとをどの専門家に相談すれば良いかを見極められる程度に知識を身につけておくことは、自らの機動力に大きく効いてきます。

それから、生の情報を取りにいくことも必要です。本や論文のように、情報が活字になるスピードは本当に遅いんですよ。情報を待っているのではなく、こちらから研究者を訪ねていく。あるいは世界中からトップ研究者が集まるような海外のカンファレンスに参加し、情報収集する。シグマクシスでも、我々のチームはもちろん、あらゆるメンバーが世界中を回って情報を集め、その後の情報収集に役立つネットワークも作っています。

そしてMITのメディアラボが提唱している「イノベーション・サークル」を紹介しておきたいですね。これまでアート、サイエンス、エンジニアリング(テクノロジーと置き換えられる)、そしてデザインといった分野はそれぞれ単独で進化を続けてきましたが、今後はこれらが相互に作用し合いながら進化していくべきだ、という考え方です。

文化の領域で、世界観、物事の認識の仕方を変えるような問いかけがアートからなされ、それが自然の法則であることをサイエンスで検証され、何が科学的に可能なのかが見える。その法則に沿って人の行動を変えるのがデザインであり、ソフトウェアも含めた「モノ」の機能をエンジニアリングで改良していく。

このように多彩な領域、複眼的な視野で考え動けることが、これからの価値創造では重要になると思います。

そうした人を育成するには?

「エモーション」を大事にすること、そして物事を「自分ごと化」することがポイントになると思っています。

例えば、活動の目的を「何かの機能を開発して課題を解決する」と設定した場合、ロジカルで客観的な世界といった印象がありますが、目的が「人の行動や生活を変える、社会を変える」だと、絶対にエモーショナルな部分が欠かせません。単にファンクションをそろえて「はい、仕様通りにできました」ではなくて、もっと体験価値を高める、エモーショナルに「コレいいね」と共感できるムーブメントを作ることは、異分野との関わりを拡げていくものになります。

ですから、ただ机の上で本を読んでいるだけではダメで、実際に見たり触れたりした体験を通じて「あれ、コレってなんでだろう」とか「どうしてこうなってるんだろう」と思い至る経験が大事です。この経験こそが、様々な問題、課題を「自分ごと化」するということです。

加えて、自分ごと化をするには、社会の課題に主体的に関わらなくてはなりません。誰かに指示されたことをやるだけでは一部分しか見えないので、自ら課題を見つけて、自らアイディアを出して、人を巻き込んでチームを作り、実際に解決してみる。課題を解く前と後の差分を、自分の両手で比べられる経験を積んだ人材が、今後求められると考えています。